さらにスライドしていくとどれも凄みのある写真ばかりが並んでいます。段々と怖くなった生徒の1人が「もう閉じた方がいいよ」と忠告します。ざわめいていた教室内はいつの間にか静まり返っていました。
その時、ガラガラッと教室の扉が開きました。驚いて振り返ると、そこにはスマホを忘れたことに気が付いた先生が立っていたのです。
◆授業中に騒ぐ生徒はいなくなった
シンと静まり返った教室で自分のスマホに群がる生徒と、スマホに表示されていたかつての自分の写真を見て状況を察したようですが、焦る様子も、怒る様子もなく、ただ黙ってスマホを回収して立ち去ったそうです。
「翌日の吊り目ごぼうの授業からは誰一人騒いだりする生徒はいなくなりました」
先生は理由を聞くわけでもなく、いつもと変わらず、淡々と授業を進めます。それでも内職をしたり、机の下でこっそりスマホのゲームをする人はいたそうですが、席を立ち上がって歩き回ったり、授業の邪魔になるような声で私語をする生徒は1人もいなくなりました。
◆「私も若かった時くらいあるんだよ」
「卒業間近くらいの頃かな、その先生と廊下ですれ違ったときがあって、スマホに保存されていた暴走族だった頃の写真について尋ねたことがあったんです。もちろん、ごめんなさい、って謝ってからですよ。あれは何だったんですかって。そしたら先生が、『まあ、隣町で……わたしも若かった時くらいあるんだよ』ってそう言って、ニヤッと笑って去っていきました」
時として、人は見かけによらない過去を持っているものです。「きっと一生忘れないでしょうね、この先生のことは……」とリンさんは締めくくりました。皆さんは、人は見かけによらない経験をお持ちでしょうか?
<文/浅川玲奈>
【浅川玲奈】
平安京で生まれ江戸で育ったアラサー文学少女、と自分で言ってしまう婚活マニア。最近の日課は近所の雑貨店で買ってきたサボテンの観察。シアワセになりたいがクチぐせ。