◆朝ドラが家族を描くわけ
朝ドラは時代設定もテーマも作品によってバラバラだが、序盤で家族1人ひとりの姿、主人公と家族の関係性を詳しく描く点では一致している。『おしん』(1983年度)の時代の前からずっと続くセオリーだ。
そうすると、大半の視聴者が家族との暮らしを経験しているから、親近感を抱かせやすい。『ブギウギ』のように歌劇を描こうが、『虎に翼』のように法律を持ち出そうが、家族の存在によって物語に普遍性が生まれる。観る側の性別や年齢を問わず、家族は共通言語なのである。
また、家族を詳しく描くことにより、ホームドラマの色合いが強くなって、やはり視聴者を惹きつけやすくなる。ホームドラマは今も昔も国内外で人気。家族の関係自体が1つのドラマだからである。
さらに、子役編の有無を問わず、序盤の主人公は例外なく若い。人間的に未成熟。主人公中心で物語を進めようとすると、どうしても話が拙(つたな)くなる。それを補うのが家族の存在なのだ。それも家族の描写が薄いと難しくなる。さらに、家族を細かく描くと、主人公の将来の人物像もある程度、浮かび上がるのだ。
◆『ブギウギ』『虎に翼』での家族描写
近作はどうだったのか。『ブギウギ』の主人公・福来スズ子(趣里)は第20回の時点で、自分が香川県の名士で既に亡くなった治郎丸菊三郎の娘だと教えられる。第21回で実母が次郎丸家の元女中・西野キヌ(中越典子)だということも知った。20歳のときだった。
スズ子は強いショックを受けるが、お調子者の父親・花田梅吉(柳葉敏郎)ときっぷのいい母親・ツヤ(水川あさみ)には話さず、2人への慈しみと感謝を強める。この作品の序盤はスズ子が12歳で入団した梅丸少女劇団(USK)と家族のことしか描かれていないと言っても過言ではない。