◆河合優実は他者の気持ちに寄り添える稀有な俳優
“杏の人生を生き返す”という考えで監督やキャスト・スタッフが一丸となったという『あんのこと』はまるで、亡くなった実在の人物の供養のような物語だった。実在の人物をモデルにして、作り手が自分の考えを託したり、現代性と重ね合わせたりするのではなく、その人そのものをできるだけ再現して、こういう人が確かに生きていたことを伝える。
たとえば、直木賞受賞作『悼む人』(天童荒太)という小説は、亡くなった人を知る人からその人の話を聞くことで悼むという行いを続ける行脚のような物語で、『あんのこと』にも似たような真摯な営みを感じた。
監督の力もあるとは思うが、河合優実は自我を捨て、他者の気持ちに寄り添える稀有な俳優なのだと思う。だからこそ『不適切にもほどがある!』の80年代ヤンキー女子という、00年代生まれの河合にはまるで接点のなさそうな役をあれほど見事に演じて、80年代カルチャーを愛した視聴者からも強く支持されたのではないだろうか。
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