あと1勝で夢の甲子園、というまたとないチャンスにモチベーションが上がる越山高校と地域の人々。おなじみの青春野球ドラマであれば、決勝戦を激闘の末に制した越山高校ナインがマウンドで喜び合う光景が目に浮かぶが、同作品はシビアな問題からも目を離さなかった。それは、甲子園出場にともない必要になる費用である。移動費に宿泊費など、学校をあげての行事となれば金額は最低3000万円もかかる。初めての出来事のため資金集めに苦戦する越山高校の面々。それを打開したのは地域愛だった。点差をものともせず逆転勝ちを収めた越山高校ナインを気持ちよく甲子園に送り出せるよう、越山高校校長の丹羽や越山高校野球部のOBがアイデアを出し合い、地域の人々から賛助金を集めることに成功した。

 それぞれの思いを乗せた決勝戦だったが、ハイライトは翔(中沢元紀)の力投だろう。ピンチを背負うチームの3番手として登板し、快速球とスライダーで追加点を与えず逆転の足掛かりをつくった。目の手術を終えた祖父・犬塚(小日向文世)が病室で音声を頼りに応援する姿も感動を誘った。甲子園出場と失明するリスクのある手術。2人が迎えた大一番をお互いに応援しながら乗り越えたことも、本作品におけるひとつのハッピーエンドといえるだろう。

 そして甲子園出場という出来事は、人と人の絆を深めることに貢献したのも興味深い。美香(井川遥)の連れ子・青空(番家天嵩)は南雲を父として誇らしげに周りに紹介し、根室(兵頭功海)は大学に進学したい気持ちに正直になり姉・柚希(山下美月)に打ち明けた。甲子園後もそれぞれの人生は続くのであり、この歴史的快挙は登場人物が新たなスタートを切るきっかけになったのだ。