こうした状況になっている主な原因は「性加害はあったのか、なかったのか」がはっきり示されなかったことだ。松本側は「関係者と協議等を続けてまいりましたが、松本が訴えている内容等に関し、強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました」などとコメントを発表したが、そもそも2人きりの密室で行われた行為なら女性側が録音などしていない限り、物的証拠がないのは当たり前だ。これをもって「性加害はなかった」と判断することはできないだろう。

 さらに、松本側は「松本において、かつて女性らが参加する会合に出席しておりました。参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方々がいらっしゃったのであれば、率直にお詫び申し上げます」と仮定の形で女性側に謝罪しているが、被害を受けたと主張した女性の一人は、8日付の朝日新聞の記事で「私は仮定ではなく、実在するので深く傷ついた。記事には一切誤りが無いと今も確信している」と訴えている。とても双方納得ずくの「和解」とは思えない状況だ。

 だが、松本の復帰の準備は着々と進められているようだ。9日付の日刊スポーツによると、所属先の吉本興業は訴訟取り下げ前の夏ごろから復帰後の動きなどについてテレビ局と交渉を始めていたという。同日付のスポーツ報知では、年明けに地上波復帰し、来年4月開幕の「大阪・関西万博」のアンバサダー復活を目指すという業界内の見立てを報じている。

 復帰の最大のポイントとなるのはスポンサーの反応だ。いくら松本が復帰に乗り気で、事務所や仲間たちがそれを盛り立てようとしても、番組スポンサーが難色を示せばテレビ局はゴーサインを出せなくなる。「性加害疑惑」というセンシティブな問題があいまいな形で終結したことで、それを各スポンサーがどのように受け止めるのかは今のところ読み切れない部分がありそうだ。先述したようにネット上の反発の声は根強く、下手すれば不買運動などの事態につながりかねず、かなり慎重に判断することになるだろう。