一方で純粋な愛情の尊さも強調される
未知のものに対する恐怖と裏表といえるのが、よく知るものへの愛情・愛着だ。今作は変身を遂げた妻を思い続ける夫やその後の物語の展開をとおして、容姿や属性には阻むことのできない人間の無償の愛も描いている。理不尽なヘイトや、社会の不寛容が強く描かれる作品だからこそ、その無償の愛・思いやりの尊さも見事に強調されるのだろう。
さらに、恐怖は感情・無知から来るもの。まっすぐな好奇心を特徴とする、おしゃべりなADHDのキャラクターの描かれ方がほかの人間たちと異なるのも、一貫したテーマを支える重要な要素だ。
冒頭から衝撃的なシーンに始まる今作は、非常に奇抜な設定の異色作に見える。しかし観てみれば、世界中に蔓延する普遍的な問題を描き、改めて学びを与えてくれる印象深い1作だった。
『動物界』は11月8日(金)日本公開。
作品情報
タイトル:動物界
原題:LE RÈGNE ANIMAL
英題:THE ANIMAL KINGDOM
監督・脚本:トマ・カイエ
出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス
2023年|フランス|フランス語|カラー|スコープサイズ|DCP|128分|字幕翻訳:東郷佑衣|PG12
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
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