なんて変幻自在な音色をもった俳優なのだろう。音域が広い。現行オペラの世界には、ソプラノより低い音域のメゾソプラノが男性役を演じるズボン役(英語ではパンツ・ロール)というのがあるが、キムラの音域ならズボン役まで引き受けられそうだ。そうした音域の幅によって、本作のメイン舞台である福岡に対してあくまで回想場面として挿入される神戸編を自分が支えてみせようという、マジカルな心意気すら感じる。
◆『グレーテルのかまど』の世界観を支えるキムラ緑子
毎朝ばかりか、毎週の放送が楽しみになる“魔法の声”でもある。NHK Eテレで毎週月曜日に放送されている『グレーテルのかまど』では、お菓子作りに励むヘンゼル役の瀬戸康史をサポートするかまど役として出演している。
出演といっても声だけの出演。ヘンゼルの姉であるグレーテルの家に備え付けられたかまどから声が聞こえる設定なのだが、豊かな音色をもつ声の俳優であるキムラの使い方をほんとうによく心得た番組だと思う(2022年4月4日放送の「クッキーモンスターのクッキー」回では、クッキーモンスターがクッキーを食べまくる激しい咀嚼音とキムラの声が絶妙なコントラストだったと記憶している)。
実際同番組のプロデューサー・上田和子は、キムラの声の魅力について、「その回にあったテンションや声質を変幻自在に使い分けてくれている」と解説している(『ORICON NEWS』インタビューより引用)。メルヘンでマジカルな世界観は、画面外にいるキムラが吹き込む魔法の声によって支えられているのだ。
◆魔法使い役もマジカルなバリエーション
上田プロデューサーは他にもスタジオ内でトークするヘンゼルとかまどのセリフには「アドリブ満載」だと証言している。自分の姿かたちが画面上はオフ。声だけならば、ええい好き放題やってしまえという感じのアドリブ。キムラのアドリブに対して瀬戸が時折ぷぷっと本気で笑っている瞬間を垣間見ることがある。