◆「ほめられたことない」満たされずに唯我独尊イメージに乗っ取られ…
<僕が死んだら、どんなふうに書かれるんでしょうね。生まれながらのヒールですから。ほめられたことないですから。それでも死んだらくさされへんから、気持ち悪いぐらいええこと書いてくれるんかなあ。>(p.120)
ダウンタウンは、こうした満たされなさを逆手に取り、ルールを書き換えることで、お笑いの覇者になりました。その事実は揺らがないし、革命的でもありました。
一方で、唯我独尊のパブリックイメージに本人が乗っ取られてしまった可能性はないでしょうか?
“松本人志はオンリーワンであり、その人物が生み出す笑いも同様に他の何物にも影響を受けていない、全く新しいものである。それゆえに、言動も圧倒的に個性的であらねばならない。”松本のカリスマ性は、いわば極端に狭いマイルールの中で肥大していったのです。
しかし、幸か不幸か、陰湿な世界観が共感を集め、信者が増えるほどエコーチェンバーは大きくなり、客観性は失われていきました。もともと他者性に欠けていた松本人志の言葉にとって、それはあまりにも危険な媚薬でした。
『愛』を読み返して、松本人志の破綻は必然だったのだと思いました。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4