(本記事は、長尾義弘氏の著書『最新版 保険はこの5つから選びなさい』河出書房新社、2018年7月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

医療保険に入っていると、入っていない人より損をする!?

さらに、医療費には税金が安くなる制度があります。

「医療費控除」です。

1年間にかかった医療費が10万円を超えた場合には、税金がもどってきます。

なかなか10万円には達しないと思うかもしれませんが、家族全員の医療費を合算できるのです。

妻が歯の治療をした、子どもが風邪で内科にかかった、おじいちゃんが整形外科に通っている......こんなふうにすべてを合わせると、かるく10万円を超えることも珍しくはないのです。

確定申告するというのが面倒ではありますが、手間を惜しんではいけません。ぜひ、税金(所得税と住民税)を取りもどしてください。

とはいえ、医療保険に入っている人には、申告にあたり注意点があります。

保険から支払われた入院給付金、手術給付金などがあれば、年間の医療費から、そのぶんを差し引かなければいけないのです。

具体的に例をあげて説明しましょう。

入院・手術で支払った年間の医療費が20万円あったとします。

・医療保険に入っていた場合

給付金が24万円支給されたとすると、

20万円?24万円=マイナス4万円

差し引きでマイナスになりますから、医療費控除の対象にはなりません。

・医療保険に入っていない場合

20万円-10万円=10万円

この結果、10万円が税金から控除されます。所得税10%+住民税10%=20%(所得税が10%の場合)

10万円×20%=2万円

2万円の税金がもどってくることになります。

つまり、医療費控除を使う際にも、医療保険に入っていないほうが有利になるわけです。

「入院費用」は保険料より低い

医療保険のパンフレットを見ると、「入院の平均日数は約30日です」と書いてあります。

およそひと月と聞けば、ぎょっとしてしまいます。ただし、このデータは全体の平均で、すべての年代に当てはまるわけではありません。

年齢別の平均入院日数は15~34歳は12日、65歳以上は41.7日です。

さらに75歳以上になると47.6日になります。若い人の場合は入院日数が短いので、当然、保険料も安くなっています。

いっぽう、こういったデータもあります。

4日以内に退院した人が約33.3%、7日以内に退院した人は48.7%。

つまり、2人に1人は、7日以内に退院しているわけです。政府の方針もあり、一般的に入院期間は短くなっています。

また、入院=手術ではありません。手術を受けなかった人は、約65%もいます。

がんになった場合でも、入院や手術はなくて、通院だけの治療も増えてきています。医学の進歩ですね。この傾向はどんどん進んでいくと思います。

これを入院日額5000円の医療保険に当てはめて考えてみましょう。

4日以内に退院する人は約2万円の給付金が、7日以内に退院した人は約3万5000円の給付金が出ます。データによれば、およそ半数は3万円前後の給付金しか受け取れないのです。

それでも給付金が出ると、つい「医療保険に入っていてよかった」と思ってしまいがち。いったいどこがいいのでしょう。

支払った保険料を考えてみてください。

ひと月あたりの保険料が3500円だとすると、3500円×12ヵ月=4万2000円。給付金は、実際は1年分の保険料にも満たないのです。割に合わないですよね。

そもそも、短期の入院に保障は必要なのでしょうか?

かなり以前の医療保険は、5日間以上の入院でなければ、入院給付金はありませんでした。

近年、販売されている多くの医療保険では、1泊入院で給付金が出ますが、そのぶん、保険料は高くなっています。1日ぐらいの入院なら経済的なリスクなどないと思います。

保険の必要はありません。

入院限度「60日」の医療保険VS貯蓄

医療保険では入院限度日数が決まっています。60日型が主流になっていますが、なかには30日型もあります。

60日型は、1入院につき60日まで入院給付金が出るというものです。入院が90日になったとしても、保障は60日ぶんだけです。

さらに、同じ病気での2度目の入院は180日の間が空かなければなりません。たとえば、30日で退院して、それから60日後にまた入院したとします。

すると、これは全体で1入院とみなされて、再入院は31日目からカウントされてしまうのです。

ちなみに、べつの病気の場合は180日空いていなくても大丈夫です。

もし、60日間入院したとすると、給付金は入院日額1万円で満額の60万円です。月額4000円の保険料を13年間払っていたら、

・4000円×12ヵ月×13年=62万4000円

つまり、13年の間に払った保険料が、限度日数まで入院をすると、もどってくることになります。もちろん、この間に何度も何度も入退院を繰り返すことがあるかもしれません。

その場合は、医療保険はありがたい存在になると思います。

しかし、そう何度も入院する人はすくないのではないでしょうか。

そもそも60日型では、入院日額5000円なら30万円、日額1万円でも60万円しか保障がないのです。短期入院は、貯蓄で対応するのが基本と考えておくのが正解です。

本当に困るのは、長期の入院です。

脳血管疾患は平均89.5日の入院を余儀なくされることがあります。統合失調症の場合は、入院が1~2年におよぶこともあります(平均の入院日数は546.1日)。

収入が途絶え、医療費がかさみ、生活に支障をきたすことは容易に想像がつきます。

長期入院に備えたい場合は、入院の限度を700~1000日まで延ばすことはできますが、保険料はかなり高くなります。

長期入院に対応している医療保険は少ないのです。

しかし、長期の入院に対応している保険に「就業不能保険」があります。この数年で商品が続々と登場しています。

「就業不能保険」とは、病気やケガで働けなくなったときに、毎月お給料のように受け取ることができます。収入が減ったときに役立つ保険です。

会社員・公務員の場合は、病気やケガで働けなくなった場合には、傷病手当があります。給料(標準報酬日額)の3分2に相当する額が、最長1年半にわたって支給されます。

しかし、フリーランス・自営業の人には、傷病手当はありません。ですので、ご自分で働けなくなった時の収入減に備える必要があります。

就業不能保険で注意することは、給付金の支払い要件です。通常、就業不能状態が60日とか180日続いた場合に、給付金を受け取ることができます。

働けない状態になったからといって、すぐに受け取れるわけではありません。

就業不能保険のなかには、1年半の間は給付金の半分を受け取り、1年半以降は全額受け取れる商品で、そのぶん保険料は安くなっている会社員向きのものもあります。

就業不能保険と似ているもので「所得補償保険」というのもあります。こちらは損害保険会社が出している商品です。

就業不能保険のように要件は厳しくはなく、働けない状態になると比較的すぐに給付金を受け取ることができるのですが、補償期間が1~2年と短い保険です。

ところで、自営業の場合は健康問題より、むしろ事業の不振で収入が途絶えるという場合が多いのではないかと思います。先の保険では、そうした事情には対処できません。

貯蓄でリスクに備える方法を考えたほうがいいでしょう。

貯蓄をするならば、節税効果も高い「小規模企業共済」を活用するのがオススメです。掛け金の全額が所得控除になりますし、仕事をやめたあとの退職金・年金として備えることができ、事業不振のときには借り入れ制度も利用できます。

保険のプロたちは医療保険に入らない

ファイナンシャルプランナーのなかでも、とくに保険の専門家が集まったとき、自分が入っている保険の話題になりました。

そこで判明したのは、じつは、みな医療保険には入っていないという事実です。

もちろん、私も医療保険には入っていません。

では、いったいどうしているのかというと、彼らの半数は「都道府県民共済」に入っていたのです。

都道府県民共済は、総合保障型と入院保障型があります。それぞれ、ひと月2000円の掛け金です。

入院保障型は日額1万円が、ケガは184日、病気は124日まで保障されます。ケガでの通院保障もついています。

さらに割戻金があって、保険料がすこしもどってきます。2016年の都民共済の実績は38.60%で、年間の割戻金は9278円。実質的な毎月の掛け金は1227円でした。掛け金が低いという点が魅力ですね。

さすがは保険のプロたち、コストパフォーマンスのいい商品を知っています。