(本記事は、加谷珪一氏の著書『億万長者への道は経済学に書いてある』クロスメディア・パブリッシング、2018年12月21日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
もっともシンプルなGDPの定義
貯蓄されたお金は、銀行を通じて企業などに融資され、設備投資に充当されることになります。
この話は、GDP(国内総生産)の定義と密接に関係しています。
もっとも簡単なGDPの式は以下のようになります。
GDP=消費(C)+投資(I)
この式では、GDPのうち消費されなかった分が、金融機関を通じて投資(I)に回っていますから、貯蓄(消費されなかった分)と投資は一致しています。
消費の主体は主に家計で、投資の主体は企業ですから、この経済モデルは、家計と企業の支出を示しているともいえます。
これがもっともシンプルなGDPの定義です。
しかしながら、経済の中で大きなお金を支出する主体がもうひとつあります。それは政府です。
政府は所得を得た国民から税金という形でお金を徴収して、それを政府支出という形で消費もしくは投資します。
本来なら、政府は経済全体の中では中間的な立場であり、無視してもよい存在なのですが、動かすお金があまりにも巨額であるため、政府の支出は需要と供給に大きな影響を与えます。このため、GDPを計算する時には、政府支出も考慮に入れることになっています。
経済学における「豊かさ」とは何か?
ここで家計と企業、そして政府という3つの主体が出揃いました。
家計は主に消費を行い、企業は家計が貯蓄したお金で設備投資を行って製品やサービスを家計に提供します。政府は家計から徴収した税金を使って支出します。
GDPはそれぞれの主体がどのくらいお金を使ったのかを示したものです。
以下の式は非常に重要ですからしっかり覚えておいてください。
GDP=消費(C)+投資(I)+政府支出(G)
国内における消費と投資、そして政府支出をすべて足し合わせたものがGDPの正体ということになります。
そして、家計が消費として支出したお金、企業が投資として支出したお金、政府が支出したお金は、最終的には何らかの形で(多くは給料という形になりますが)家計に戻ってきます。これが「所得」であり、次の消費や貯蓄の原資となります。
この循環が活発になれば、世の中には多くのモノやサービスが溢れ、人々は豊かな生活を送ることができます。経済学の世界では、この循環が活発になることを豊かになることと定義しているわけです。
トヨタとホンダでは“儲け方”が違う
日本は輸出大国であり、製造業が経済のカギを握っています。したがって輸出の動向は株価に大きな影響を与えます。
輸出が存在するということは、国内だけでなく海外にも需要が存在していることを意味していますが、海外の需要は国内の事情とは関係なく決まります。また、ある製品への需要が急に消滅するのも考えにくいことです。
もしそうなら、為替以外の要因では輸出はあまり変動しないはずですが、現実はそうでもありません。
輸出の状況はメーカーのオペレーションに大きく左右されることが多く、企業の経営環境が変わると輸出も大きく変動します。
輸出企業と現地生産企業の違いとは?
近年は、消費地の近くで製品を製造するという、いわゆる「地産地消」が進んでおり、輸出が経済全体に及ぼす影響が低下してきました。
例えば日本の主要産業である自動車の場合、日産の国内生産比率は約18%、ホンダの国内生産比率は16%しかありません。こうした企業が増えてくると、日本経済や日本株に対する輸出の寄与度も下がってくるわけです。
しかしながら、すべてのメーカーが生産を海外に移しているわけではありません。
最大手のトヨタは国内生産体制の維持にこだわっており現在でも45%を国内で生産しています。またスバル(富士重工)はほとんどの製品を海外で売っていますが、生産の75%は国内です。
輸出企業も現地生産業も、円安になればその分だけ売上高が増え、逆に円高になれば売上高が減少しますから、業績は同じように変動します。
国内生産している企業の場合、労働者のコストは為替で変動しませんから、現地生産よりも、多少、有利になるでしょう。
付加価値が高い業種の場合、人件費比率はあまり高くないので、現地生産でも輸出でもそれほど大きな違いにはならないことがほとんどです。
しかしながら、輸出中心の企業と現地生産の企業を比較すると、業績は似たようなものであっても、お金の流れはまったく異なります。