損益通算できない所得

損益通算は法で認められた範囲でのみ行われる。株式などの売買での損失は、給与所得など他の所得とは損益通算できない。逆に他の所得で赤字があっても、金融商品での利益と損益通算できない。たとえば不動産所得などで損失があっても配当金や株式の売買益での黒字とは損益通算できないのだ。

金融商品ならどれでもできるわけではない。「上場株式等」と国税庁が呼ぶグループ内では損益通算ができる。上場している株式、投資信託、債券のほとんどがあてはまる。しかし、上場していない「一般株式等」は含まれない。「上場株式等」に含まれるグループ内、「一般株式等」のグループ内で赤字と黒字の相殺はできるが、グループを超えて相殺はできないのだ。

また、先に述べたように配当所得で総合課税を選択した場合も損益通算はできない。損益通算をするには、申告分離課税を選択する必要がある。

NISA口座内の金融商品も損益通算はできない。NISA口座では損失はないものと扱われる。したがってNISA口座内で赤字と黒字が出ても相殺できないし、NISA口座以外の取引とも損益通算はできない。

損益通算の手続き

上場株式などの売買での損失を損益通算したい場合は、原則的には確定申告をする必要がある。損益通算の適用を受けたい年の確定申告書類に、その旨を記載する。そして「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添えて確定申告書を提出する。

その年内で損益通算してもまだ赤字がある場合、翌年から3年間繰越控除ができる。このためには、上の手続きに加え、翌年以降も続けて「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を添えて確定申告を行う。上場株式などの取引のない年でも、損失の繰越控除のためには毎年申告が必要だ。

ただ、一から確定申告書を作成しなくて済む方法もある。証券会社などで特定口座を開設すれば、ほとんどの手続きを証券会社が行ってくれる。これは国税庁も認めている制度だ。

源泉徴収ありの特定口座

特定口座制度は納税手続きの負担を軽減するための制度だ。特定口座を開設すると、証券会社などの方で特定口座内における上場株式などの取引について、売買損益などを管理し計算してくれる。そして年間の損益を計算した「特定口座年間取引報告書」を顧客と税務署の両方に交付してくれる。

特定口座の開設時に「源泉徴収あり」「源泉徴収なし」のどちらかを選ぶことができる。源泉徴収ありだと、証券会社が納税まで行ってくれるので顧客は確定申告する必要はない(必要があれば個人で確定申告を行うこともできる)。

配当所得を源泉徴収ありの特定口座内で損益通算して欲しい場合には、3つの条件がある。「上場株式配当等受領委任契約の締結」「源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書の提出」「配当金の受取方法を株式数比例配分方式と選択すること」だ。

「株式数比例配分方式」とは、上場株式などの配当金を証券会社などの口座内にある株式数に応じて、証券会社などを通じて受け取る方法だ。配当金の受け取り方には、昔ながらの「企業から投資家の自宅へ直接配当金領収証が郵送され、投資家自身がゆうちょ銀行などで配当金を受け取る」方法や、銀行口座に振り込んでもらう方法もある。ただし、証券会社などの特定口座で損益通算をするには「株式数比例配分方式」を選択している必要がある。