甲斐が作る食事によって、浩国は身も心も温まる。で、肝心のポテンシャルなのだが、第2話、それは甲斐が焼きそばのトッピング用の目玉焼きを調理する場面。画面奥で調理する甲斐がフライパンを見つめるとき、目玉焼きの焼き加減を確かめるフライ返しを持つ右手に注目。正確には手首も含めた右手。この手首から手の甲にかけてのゆるやかな傾斜具合がやたらと生々しく、色っぽい。

 あぁ、この人の才能はきっとこの右手周りに凝縮されてるんだなと感じるくらい、何かが宿っている。浩国の前に目玉焼きをトッピングした焼きそばの皿を差し出すときも右手。でも惜しいことに、手首も手の甲も写らない。

 これは単なる物撮りショットにも見えるから、撮影現場では野村の右手で撮影せずに、誰かスタッフが吹き替えているかもしれない。なかなか素晴らしいトーンのBL作品だっただけに、この右手のポテンシャルを決定的に生かしきれていないことが同作唯一の欠点だった。

◆他にもポテンシャルがありそう

 目のつけどころは案外間違っていなかったようだ。すると主演最新作『その着せ替え人形は恋をする』でこの右手ポテンシャルがはっきり明示される。第1話冒頭を見ると、主人公の高校生・五条新菜(野村康太)が、祖父・五条薫(山田明郷)とふたりの朝食場面で配膳係を担っている。

 祖父が座るテーブルに腰を下ろし、椀と茶碗を置くのは右手(!)。シャツの袖をまくりあげ、手首もちゃんとでている。しかも左手は丁寧にネクタイをおさえる。さりげなく細かいなぁ。完璧である。ちょうど腰まで写る画面上で、慎ましく右手がそっと配膳する動きをこうして押さえてしまえば、こっちのものだ。

 右手のポテンシャルスター俳優としての野村康太が、ここに誕生した。人形屋の孫として雛人形の衣装作りに励んでミシンを動かす新菜が、後ろで見守る薫を見上げる場面では、目をぱちくり、眼球をくるくるさせる。どうやら目そのものの演技はまだ定着していないようである。ここは沢村の目力ビームを参考にして、他にもポテンシャルがありそうな部位ごとの演技を完成させてほしい。