堅実で、一生懸命で、素朴でまっすぐ。しかも愛嬌たっぷり。そんなの、好きにならざるを得ないじゃないか!
◆時代劇への愛と人生への希望に「映画っていいなあ」
世話になる寺の住職夫婦とのやり取りや殺陣の師範(しはん)との稽古でつい勝ってしまう様子などは微笑ましく、ベタで優しい笑いに溢れている。その一方で見事な体幹から繰り出される殺陣の迫力に圧倒され、台本のト書きから会津藩の辿(たど)った運命を知ってしまうシーンの悲痛さには言葉を失った。
ラストの決闘シーンは息を吸うのもはばかれるようなたっぷりとした沈黙の緊張感と、まさに命の取り合いそのもののような鬼気迫る殺気に、手に汗握り鳥肌がたった。
今は亡き侍たちと陰りゆく時代劇の未来を重ねながらも、余すことなく詰め込まれた時代劇への愛と人生への希望に、清々しさと共にしみじみ映画っていいなあと胸がいっぱいになった。
細かい殺陣や伏線など、何度みても発見があり、おかわりが楽しい一作。ああ、また彼らに会いたい。
『侍タイムスリッパー』
監督・脚本・撮影・編集:安田淳一 殺陣:清家一斗 出演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの 撮影協力:東映京都撮影所 ©2024 未来映画社 配給:ギャガ 未来映画社 絶賛公開中
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。