元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。

宇垣美里さん
撮影/中村和孝
 そんな宇垣さんが映画『侍タイムスリッパー』についての思いを綴ります。

映画『侍タイムスリッパー』
©2024 未来映画社
●作品あらすじ:幕末の京都から現代日本へタイムスリップしてきた侍が、時代劇撮影所で「斬られ役」として奮闘しますが…。

8月末の公開時初日には、東京都内たった一つの映画館でのみの上映だった自主制作映画でしたが、SNSの口コミで人気に火がつき、10月半ば現在では全国172館で拡大上映。同じく自主制作から大ヒットした『カメラを止めるな!』の再来といわれる本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

◆素朴でまっすぐ。しかも愛嬌たっぷり。好きにならざるを得ないじゃないか!

映画『侍タイムスリッパー』
©2024 未来映画社
 一分一秒でも長く、この人の人生を見守りたいと画面にかじりつく。日常のふとした瞬間に「あの人ならどうするだろう」と思いを馳せる。そんな風に大切に思える登場人物に出会える幸運をなんと呼ぼう。

 高坂新左衛門は私にとって、いや多くの人にとって魅力的で応援せずにはいられない唯一無二の存在だ。

 会津藩士・高坂新左衛門は藩命を受け、長州藩士を暗殺すべく刀を交えるが、落雷が直撃する。意識が戻ると、そこは現代の京都にある時代劇撮影所。なんと140年後の未来へとタイムスリップしてしまっていたのだった。

 高坂は己の運命を受け入れ、自分の特技と出自を武器に時代劇の斬られ役として生きていくことを決意する。

映画『侍タイムスリッパー』
©2024 未来映画社
 山口馬木也演じる高坂の剣さばきや、ふとした動作ひとつひとつが持つ説得力といったら。生真面目で誠実な佇(たたず)まいながら、あくまで現代の私たちとは異なる倫理観を有した魂の持ちようはまさに侍そのもの。

 そんな彼が現代の街を彷徨(さまよ)い失ったものを実感する様子や、八つ当たりするでもなく静かに現状を受け入れ、なんとか馴染もうと奮闘する姿がただただ健気。握り飯の美味しさに目を丸くし、ショートケーキから豊かな時代の到来を実感し祝福する描写には思わず涙してしまった。