そうそう、思い出した。既視感の正体は山下智久主演の『正直不動産2』(NHK総合、2024年)だ。『おむすび』が初見ではなく、『正直不動産2』で松本のことを初めて画面上に確認したのだった。だから既視感があったのだ。

 同話ラスト、山下に深々とお辞儀をした松本が顔を上げて見つめる(ちょっと表情がわざとらしいが)ワンショットがある。それを見て、美しい新人俳優がでてきたのだなぁとすっかりやられてしまったのだが、いわば『おむすび』で松本怜生に出会い直したみたいな感覚である。

◆オートマティックな美麗俳優

 松本怜生は、見る者に何度だって恋させる。しかも毎回が初恋のようにエスコートしてくれるかのようだ。これはどうしたものか。ここまで一瞬で人をとろかす、何か特別な才能、秘密があるのだろうか?

 その秘密の一部を明かすインタビュー記事があった。風見役の人物像について松本は「誰が見てもキラキラしているキャラクター」(『ステラnet』インタビューより)と答えている。だから「まず見た目が重要」なのだと。内面よりも(表情も含めた)外面からのアプローチ。これが風見役の役作りの基本になっている。

 もし内面的に演じ込みすぎてしまったら、あの美麗、あの初恋の衝動はうまれていないだろう。意識的にちょっと視線を動かしてみる。すると風見のカリスマ的な仕草となって、自然とキャラクター性がうまく稼働する。なんと恐るべきオートマティックな美麗俳優だろう!

◆「一は記号やない。言葉だ」の真意

『おむすび』© NHK
 第2週第6回、松本の美麗な魅力が際立つ印象的な場面がある。ハギャレンに強制的に加入させられたらしい結は、書道部との両立を頑張ろうとする。するとどうも手元が力んでしまい、半紙に一本線で引く「一」の文字がうまく引けない。

 見回りにきた風見がその様子を見て「一は記号やない。言葉だ」と言う。確かにそうであるという表情をする結に対して、さらに「気持ちを込めて書く」と格言めいたアドバイスをするのだが、いやいや「一」は確かに「言葉」ではあるが、同時に「記号」でもある。