家庭に一生懸命寄り添ってきたという思いが強い夫、だが妻のほうは、自分勝手に作りたいときだけ料理をして、家族においしいと言わせたがる夫だと感じていたのだ。その場でもっとフランクに話せればよかったのだが、家族といえどもどこか遠慮はあるものなのかもしれない。
「私の父が、何が不満なのか家で急に不機嫌になる人だったんです。だから私はそういうことがないように気をつけていた。だけど50歳になったとたんにグループ会社に出向させられて、一時期、精神的に不安定になった時期があったんです。そのことはすぐに妻には言えなかった。ただ、給与が下がりますから言わざるを得なくて。
妻からは慰めの言葉も励ましもなかった。私はそれが寂しかったんですけどね。妻に言わせると『どう慰めたって事実は変わらない。相談されれば別だけど、下手なことを言わないほうがいいと思った』ということだった。話せば話すほど、当時のお互いの気持ちがすれ違っていることがよくわかりました」
妻は次女が就職したら離婚届を差し出すため、何年も前からもっていたと打ち明けた。離婚してどうするんだと聞いたら、「別に」と答えたという。
◆家庭内別居
「経済的にお互いに苦しくなるのは目に見えている。昔からのさまざまなことを話したら、妻も少しはストレス発散ができたんでしょうか。『今さら離婚するのもめんどうではあるわね』と言い出して」
以来、ふたりは話し合いを重ね、家庭内別居をすることにした。今までの役割をお互いに放棄する。ふたりとも自分のことだけをする。洗濯も炊事も自分の分だけでいい。
「夫婦でシェアハウスの同居人になろう、と。経済的にはお互いに生活費を出し合っていましたが、家のローンは私が、光熱費は妻が出し、あとは雑費として少しずつ出し合うことに決着しました。お互いのプライバシーには関知しないことも取り決めたんです」
もしどちらかが外で恋愛し、本気で離婚したいと思うようなことになったら、そのときに話し合う。