ご主人の幸弘はそんな耕吉を許し、左右馬にも十分な報酬を支払いました。千代は、鹿乃子に「左右馬のことを宣伝してください」と頼まれたこともあって一部始終を新聞に投書。左右馬が多額の報酬を得たことを知った商い人たちが、ツケの回収を求めて左右馬の事務所に押し寄せるのでした。

「順番に並んでください!」

 前回、いつか相談者が押し寄せて「順番に並んでください!」と言えるようになればいいねと話していた左右馬と鹿乃子、こんな形でその願いが叶うなんてね。というステキな伏線回収でした。「伏線回収」って、すっかり一般的な用語になりましたけど、こんな感じで嫌味なく回収される伏線は気持ちがいいですね。今回はそんな感じ。

■結果的に“倒叙”になる

 このドラマにおいて、「鹿乃子がウソを聞き分けられる」という能力については疑いなく“ホンモノ”ということになっています。鹿乃子の目の前でウソをついた人間にはエフェクトがかかるので、鹿乃子はその能力による判断についてウソをつけない。そういう設定です。

 耕吉が言う「千代が誘拐された」「千代は劇場にいない」という証言はウソ。視聴者にはとりあえず、その情報だけが与えられるわけです。

 かの『警部補・古畑任三郎』(フジテレビ系)で有名になった“倒叙型”というミステリーのスタイルがあります。ドラマの冒頭で犯人が殺人事件を起こす場面を見せてしまい、犯人を明かした上でその方法や動機を後から明かしていくことでドラマにしていくスタイルです。

 この『嘘解きレトリック』の今回の事件は、犯人が誰だかはわからない。何が起こったのかもわからない。ただし、耕吉がウソをついていることだけはわかるという、謎を半分残した“半・倒叙型”とでも呼ぶべきスタイルが採用されています。

 前回は事前に事件の発生を防ぐことに使われた鹿乃子の能力でしたが、今回は解決の発端として作用しています。

 原作はドラマを追いかける形でちょっとずつ読んでいるんですが、もしかしたら鹿乃子の「ウソを聞き分ける」という能力を、いろんなミステリーのパターンに差し込むことでオリジナリティを出していく感じになるのかな。今のところ、ほのぼの空気感で中和されてますけど、事件と推理を構築するトリックメーカーとしてもけっこう凝ったことをやっているので、次回以降も楽しみです。こういうふうに軽い感じで深いことをやってるドラマってカッコいいんだよな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)