熱心に鏡を見つめ、胸のリボンが曲がっていないか、スカートの丈もこれくらいの長さかなと、丹念に調整する。初登校とはいえ、どうしてこんなに制服姿の橋本環奈に対して時間を割くのかと不思議に思うと、そういえば、橋本の初主演映画は『セーラー服と機関銃-卒業-』(2016年)だった。
あの鮮烈な初主演が記憶させているのは、ヤクザの跡目を継いだ主人公が、堅気の女子高校生に戻るという、可憐な制服姿の力強い物語だった。それを思い出すと、SNS上での「ハシカン(橋本環奈)の無駄づかい」という批判コメントも見当違いだなと思えてくる。
◆『おむすび』第一声は誰か
とはいえ、筆者は特別、橋本環奈に思い入れがあるわけでもない。『おむすび』に対して意外と悪くない始まり方だぞと感じながら、『虎に翼』ロスを引きずることなく、それなりに楽しめてしまうほんとうの理由は、実は北村有起哉にこそある。
本作の初登場は、制服を調整する橋本環奈だが、第一声は誰か。北村有起哉である。結の父親・米田聖人役を演じる。結はどれだけ準備に時間をかけているのかと、朝食の席で「結、遅くないか」と第一声。
北村有起哉と朝食。本作最大の安心材料であり、これだけでもう見ていられる。何だかいつも機嫌が悪そうな仏頂面。ぶつぶつ小言を言いながら、ご飯はちゃんと食べる。あまり健康的ではなさそうなのに、俄然生命力を感じさせる表情。北村有起哉とは、不思議な魅力の人である。