子どもたちにとっては日常から解き放たれる夏休みがあり、けれどもその非日常は必ず終わる。ドラマチックなストーリーを紡ぐにはうってつけなのだと感じます」
◆最も強く特徴づける要素は「ヒロインの消失」
なかでも、ブルーライト文芸を強く特徴付けるのが、「ヒロインの消失」です。
「ペシミさんも言及されていることですが、『ヒロインの消失』は、古くから日本の恋愛小説で繰り返し描かれてきたモチーフです。たとえば1936年の『風立ちぬ』。堀辰雄によるこの小説では、結核を患った婚約者と主人公である“私”との悲恋が描かれています。
比較的新しいところでは、2001年に発表され、320万部超の大ヒットとなった『世界の中心で、愛を叫ぶ』(片山恭一著)も、主人公が最愛のヒロインを白血病で失う話です。
また、2015年に発売され、累計発行部数が300万部を超えた『君の膵臓を食べたい』(住野よる著)も、膵臓の病気を患う美少女と孤高な男子が出会い、少女が悲劇的な最後を迎えるというストーリーです。
こうしたヒロインの『消失』や『喪失』は、昔から日本人が大好きなモチーフなのだと思います」
◆『ぼくと初音の夏休み』執筆に至った3つの理由
7月に刊行された掌編小説さんの『ぼくと初音の夏休み』。その内容も、人付き合いが苦手な主人公の男の子が高校1年生の夏休み、変わり者の同級生の女の子と湘南の海で出会い、浜辺のごみ拾いに巻き込まれる、というところから物語が動き始めます。
まさにブルーライト文芸の王道を行くようなボーイ・ミーツ・ガール作品ですが、掌編小説さんが執筆に至った理由は、大きく3つあったそうです。
「私自身、ブルーライト文芸をいくつも読んできました。すばらしい作品ばかりでしたが、同時に、『困難を抱えた主人公やヒロインが、健気にそれを乗り越えようとする姿を描くことにより、同情や感動を生み出し、読者に消費させてしまっている側面もあるのではないか』という気持ちを抱いたことがあったのです」