当たり前のことですが、親にも子どもだった時期があり、青春時代を通ってきた。その経験を胸の奥に宿しつつ、大人になり、迷い悩みながら必死に親をやっている。

 ですから、子どもときっぱり切り分けられた『敵対する存在』や『成熟した理解者』としての大人ではない親の姿を描きたいと思ったんです」

◆金銭・性についての問題も取り上げたかった

ぼくと初音の夏休み
(撮影協力/精文館書店 TSUTAYA BOOKSTORE ゆめが丘ソラトス店)
 そして、3つ目の要素として掌編小説さんが意識したのは、ブルーライト文芸ではあまり描かれない「性」や「お金」といった生々しい部分もきちんと描くということ。

「性とお金の話が出ると、急に現実に引き戻されるので、フィクションを描く以上、『あえて触れない』という選択ももちろん正しいと思います。

 ただ、人間が生きていく上ではお金は必要だし、自分たちが生まれたのも誰かの性行為があったからですよね。それを描かないのは、個人的にはどこか嘘っぽい気がしてしまったんです。

 そこで、ヒロインの過去や親との葛藤の中に、意識的に性やお金の要素を盛り込んでみました」

◆意外だったのは、親世代からの共感の声が多かったこと

 これまでにない、新しいブルーライト文芸を描いてみたい。そんな想いのもと執筆を進めていった掌編小説さんですが、いわゆる“王道”から外れてしまうことに、ためらいはなかったのでしょうか。

「私は長く文字に関わる仕事をしてきましたが、プロの小説家ではないので、『自分が好きなもの、読みたいものを書いたらいいんじゃないかな』とあまり気負わず書いていました。

 でも、出来上がった作品を小説投稿サイト『ノベルアップ+』で公開すると、びっくりするほど多くの方から反響をもらえて……。

『ノベルアップ+』や作品を紹介した自分のXのコメント欄には、主人公やヒロインと近い世代の方ばかりでなく、その親世代の方々が、ご自身の若い頃と重ねてくださったり、お子さんとの距離感についてコメントをくださったりしました。これはうれしい驚きでした」