◆存在の微妙な不安定さを狙った演技
かといって、百合が明らかな山姥(やまんば)のように包丁片手に追いかけてくるなんて展開にはならない。そこは安心してもいいのだが、朋一とのどかからはほとんど家政婦扱いを受ける百合が、しかるべきタイミングで必ず豹変する瞬間がくるよなと初登場の段階から感知することはできる。
寅子と優未が加わったことで星家の食卓が活気づくが、それによってこの家族の静かな不和が逆に浮き上がる。主に朋一のちょっとした視線の微動などで食卓の気まずい雰囲気が表現されるが、食卓の端の席で優しく微笑んでいる百合が実は一番エキセントリックな存在である可能性は否定しきれないだろう。
「おばあちゃん」と呼んですぐに懐いた優未から褒め言葉をいろいろもらって嬉しそうな百合だけど、ただ優しげな老女ではないと思う。どうも百合の存在の微妙な不安定さみたいなもののすれすれ、ぎりぎりを狙う余が意識的に演技してる気がするんだよなぁ。
◆異質さを煎じた異物感
余のようなベテラン俳優が配置されることで星家の物語は家族ドラマとしてぐっと滋味深さを持っている。本作全体で考えるとこれまでには法学者・穂高重親役の小林薫が似たような役回りを担っていた。
今でこそ人々の尊敬を集める判事となった寅子だが、そもそも彼女を法曹界に導いたのが穂高だった。社会のあちこちに散見される不条理に対して「はて?」の疑問符を投じ続け、精神的にも社会的にもたくましくなっていく寅子の成長を見守った恩師だ。
その一方、戦後の混乱期の中でくじけそうになった寅子を変にかばおうとして、逆に彼女の憤激を買い続けた人でもある。穂高と再開して顔を合わせては寅子が怒り、異議申し立て。
次は挽回しようと努力するのにまた怒りを買ってしまい空回り。老齢の穂高がだんだんいたたまれなくなったものだが、なんだかいつまでたってもレギュラー化せずに小林がふわふわしていて、素晴らしく軽妙な名演だった。