上司であるプロデューサーの柿谷さん(臼田あさみ)は黒崎版とリョウ版の2パターン撮って後で黒崎に相談するつもりでしたが、運悪く黒崎が現場に現れ、リョウ版の収録を見られてしまったから、さあ大変。バチバチの言い合いになった末、リョウは制作会社を辞めて、もう一度脚本を書くことにしたのでした。
■価値観の対立ではない
黒崎はおじさんなので、リョウや柿谷さんたち現場の女性に、平気で「彼氏いるの?」とか「恋しなよ」とか言ってきます。ドラマを作る上でも必要なことだし、人の心を描く上で恋に教わることも多い。そして、多くの女性が恋愛や結婚を自然に受け入れている現状があり、そうした世間に向けてドラマを作るべきである。それが黒崎の持論でした。
リョウはそんな黒崎に、激しく反発します。
「恋愛と結婚がまるっと抜け落ちても、幸せ達成できる人うじゃうじゃいると思うんですけど。そういう人たちのこと、見えないことにしてんのは、なかったことにしてんのは、黒崎さんじゃないですか? そうやって狭い価値観で、女性の幸せを決めつけないでほしいんですけど」
一見、おじさんの古い価値観と、リョウという女性の新しい価値観の対立のように見えるシーンです。しかし、ここには価値観の対立なんてものはありません。
「おまえみたいな少数派が、自分を主語にしてドラマを作ったところで、マスには届かないって言ったろう」
黒崎は、ずっと仕事の話をしています。価値観を押し付けているわけでもなければ、リョウの中の何かを変えようとしているわけでもない。ただシンプルに、業界の先輩として、テレビドラマをヒットさせるノウハウの話をしている。売れるドラマを書くことは同じ業界で働く人間の生活を背負うことでもあるし、そこには「売れなければならない」という責任が生じる。実際、制作会社の正社員であるリョウのお給料も黒崎が作っていると言っていい。
おじさんに対して堂々と反論するリョウの姿は爽快ではありますが、その主張は単なる主張でしかありません。狭っちい学生演劇の舞台でちょっと評価されたからって、まるで自分の脚本や自分の考え方こそが共感を得られるはずだという主張は、もうこれは思い上がり、妄言にすぎない。無責任で幼稚です。