レビュー本文
生と死とジャーナリズムの狂気
今作はジャーナリストたちを主人公として描く作品。一般大衆が目撃し得ない“真実”を記録し、世に伝えるために非日常に身を置くことを生業とする彼らの姿を通じて、ジャーナリズムの必要性、危険性、覚悟、狂気を描き出す傑作だ。
時に生死の淵をさまよい、死を目の前にする経験をした人間が改めて生を実感したり、人生の転機を迎えたりすることがあるが、まさに生と死は裏表。一般社会に生きる多くの人間が体感しない、自らの死の危険や同胞の死を肌で感じ、生を確かめながら狂気に飲まれていく彼らジャーナリストの物語を、我々も今作によって体感することができる。
中心でそれを描くのは、現実に揉まれ達観したような表情がよく似合うベテランジャーナリスト役のキルスティン・ダンストと、フレッシュながら狂気に飲まれていく新人ジャーナリストを見事に演じたケイリー・スピーニー。このふたりの化学反応も見事だった。スピーニーは今年の日本公開作品だけでも『プリシラ』『エイリアン:ロムルス』、そして今作と注目作が連続しており、今非常に勢いのある俳優だ。
分断のリアルを浴びる狂気と恐怖の“IMAX映え”映画
この物語はフィクションであるが、ジャーナリズムを描くテーマ性や、「もしアメリカがこうなったら?」を体感させようとする作風からその撮影や語り口は非常にドキュメンタリー的で“リアル”なパートが多い。『アナイアレイション -全滅領域-』(17年)や『MEN 同じ顔の男たち』(22年)では複雑な演出を使ってテーマを仄めかすような形を取ってきたアレックス・ガーランド監督としては、かなりダイレクトな作風の映画といえよう。
政治的思想や軍事行動によって分断されたひとつの国。「自国にいながら、自分の身にいつ何が起こるかわからない」という恐怖は、日本では(最近少々物騒とはいえ)なかなか感じないもので、このダイレクトな作風で身をもって体験させられるこの映画には、全身の筋肉がこわばるようなシーンもあった。
現実の光景を“真実”らしく見せながら、可能な限り美しく切り取った撮影は圧巻だが、“リアル”を感じさせるのは映像だけではない。今作のような状況に身を置かれた際に、どのような音が、どのような音量で耳に飛び込んでくるのか。それをリアルに体験させる音響も特徴だ。突然鳴り響く銃声は爆音で耳に飛び込み、その衝撃には思わず身体が反応する。映像と音響によるこの“臨場感”は今作の大きな魅力となっている。
だからこそ今作は映画館の大音量・大画面で観てこそ真価が発揮される作品であるし、さらにIMAXやDolbyCinemaといった映像・音響を楽しめるフォーマットが用意されている意義も強く感じる。