一足先に息子を名門校に合格させたのが脳神経外科部長・冴島哲人(橋本じゅん)を家長とする冴島一家。受験指導を担当したのが、小雪扮する受験コーディネーター・九条綾香である。指導料は年間3000万円。少人数指導で必勝を掲げる合格請負人だ。
指導に関すること以外、余計なやり取りはしない。ピクリとも笑わない。漆黒の衣装をまとい、髪をまとめあげているその見た目は、『女王の教室』(日本テレビ、2005年)で天海祐希が演じた最恐の鬼教師を彷彿とさせる。同役と酷似する九条の役柄が、小雪の無駄のない演技と見事にコミットしている。
◆映画的な唇同士の接触
それにしてもドラマ作品に出演する小雪の姿を久しぶりに見た気がする。現在、47歳。(あまり好ましい表現ではないが)稀代の“クールビューティー”と形容されていた頃が懐かしい。
もともとはパリ・コレクションにも参加するモデル出身だった彼女が俳優デビューしたのは、織田裕二主演の『恋はあせらず』(フジテレビ、1998年)。映画俳優としての才能もすぐに開花し、日本アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)など、公開から20年近く経っても小雪マジックの華やかさは色褪せることがない。
「ウイスキーが、お好きでしょ」のメロディでお馴染みのサントリーウイスキー角瓶テレビCMのイメージが強い人も多いと思う。
近年では、一ノ瀬ワタル主演のNetflix配信ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』(2023年)で相撲部屋に活気を供給する女将を演じたり、朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合、2023年)では、『極道の妻たち』(1986年)の岩下志麻ばりの関西弁で凄みを利かせたりする。
でも筆者が驚嘆し続けているのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』よりむしろ前の映画作品。エドワード・ズウィック監督作『ラスト サムライ』(2003年)だ。近代的な明治政府軍に対する旧武士階級の敗残の美学を描いた同作で、主演俳優トム・クルーズの相手役になったのが小雪だった。