寅子と航一も背筋を正して見守る。緊迫した雰囲気。桂場の前にあんこ団子が置かれる。画面には西部劇風の音楽。打楽器、ギター、コーラスの盛り上げ方が西部劇の中でもイタリアのマカロニウエスタン臭がぷんぷん。桂場はあんこ団子を手にして眺め回し、対峙する。一度寅子の方へ視線をズラし、にらむ。そして一口。目を開いて梅子を見る。静かに深く首を振る。団子との真剣勝負。決闘である。

 たかだか団子の試食だというのに、大げさ過ぎはしないか。と思う視聴者もいるかもしれないが、ここではマカロニウエスタンにいくつもの名曲を提供したエンニオ・モリコーネ風の音楽によって、桂場と団子の決闘場面のエモーションを意図的に高めている。

◆「失言だった!」の一言に感動

『虎に翼』© NHK
 決闘ついでにいうなら、竹もとは寅子と桂場にとって因縁の場所でもある。寅子が法律の道を志して、明律大学女子部に入学する前から、この場所では大小のドラマ(戦い)が繰り広げられてきた。その一つひとつが決闘であり、その間、桂場は何度トレードマークのへの字型の唇を八の字型にゆるめたり、戻したりしたことか。

 寅子が所長室で桂場と面会した場面で、「共亜事件のあと、私、桂場さんに法とは何かというお話をしたんです」と言った、その「お話をした」場所も竹もとだったと記憶している。だから、あんこ団子への異常なこだわりを持つ桂場の決闘場面が描かれるにはここしかないのである。

 でもこだわりの面で桂場の上をいくのが、寅子という人である。第103回、航一からのプロポーズを受けると結婚によって名字が変わることに悩む寅子が、妙案として仕事上の姓は佐田のままにできないかと桂場に相談しに行く。

 桂場は「なぜそんなくだらんことにこだわるんだ」と聞く。これに寅子がカチン。「なぜこだわる? はて」と口火をきる。激しい口調で「私のこだわりをくだらないと断じられる筋合いはありません」と抗議する。桂場はしまったという顔で「失言だった!」と声を張り上げる。この一言には感動した。