◆内容が幼稚すぎて、上司に相談もできない

 その状況に調子づいたのか、お菓子外しはいっこうに終わりません。

「『お菓子をもらえないくらい我慢できるでしょ』と思われそうですが、ずっと続くと相当こたえるんですよ。自分だけ貰えるはずのものを貰えないことや、自分だけ休憩できないことがいたたまれず、みんなが食べている間はトイレなどへ行って席を外すこともしょっちゅう。この辛さはされた者にしかわからないと思います」

 派遣仲間や上司への相談も考えたという山本さんですが、いじめの内容が“お菓子外し”とあまりに幼稚なため、なかなか踏み切れなかったといいます。

「普段はフツーに接してお菓子外しだけするって、本当に周りに気づかれにくいですよね。そのあざとさに、だんだんAの顔を見るのが嫌になり、職場に行くのが憂鬱になっていました」

 そんなある日、Aのお菓子外しへの執念を感じる出来事が。

「その日はAが手づくりのマフィンを持ってきて、当然のように私以外のみんなに配りだしたんですね。そしたらそこに、みんなに慕われている40代のサバサバした社員女性が通りかかって、彼女にもAがマフィンを渡したんです。すると、私の席の後ろを通ったときに彼女が『あら~、山本さんだけ仕事してるの? はい、コレ食べて少し休んで!』と、私の席にマフィンを置いていったんです」

マフィン
 自分用のマフィンをもうひとつ貰い去っていった社員女性と、デスクの上に置かれたマフィンを交互に眺め、しばしフリーズしてしまったという山本さん。

「久々のお菓子にどうすればいいかわからなくなっちゃって。正直、Aが作ったマフィンなんか食べたくなかったですしね。でも、ここで食べないのはおかしいと考え、手に取ろうとした瞬間、なんとAが私の席に飛んできて……。『コレ、焼きすぎちゃったヤツだ』とマフィンを取り上げその場でもぐもぐ食べ、『でも味は大丈夫だったかな』とか言いながら去っていったんです。私には絶対にお菓子を食べさせまいとするやり口に、唖然(あぜん)としてしまいました」

 この一件で、お菓子外しに耐え続けることも、気づいているのかいないのか誰もフォローしてくれないことも、すべてが嫌になったという山本さんは契約途中ながら退職。

「無収入の期間ができてしまい大変でしたが、別の派遣会社に登録して大学の事務職員として働き始めました。もちろん、選んだ決め手は『同世代の女性がいない』ということ。もう、くだらないいじめで精神をすり減らすのはこりごりです」

 悩まされる人が少なくないというお菓子外し。実に陰湿です……。

―シリーズ「いじめ」―

<文/鈴木うみこ イラスト/ただりえこ>