ラスボスであるザーグの正体も含め、かなり凝った内容のSFアニメです。しかし、興収的には奮いませんでした。その原因のひとつに、メインキャラクターの1人を同性愛者という設定にしたことが挙げられています。同性同士による軽いキスシーンがあるのですが、イスラム圏では上映禁止となり、中国ではキスシーンのカットを求めたところ、配給のディズニーが拒否したことから、中国でも上映なしとなりました。

 ディズニーとしては性や人種の多様性を認めた、開かれた企業のイメージをアピールしたかったのでしょうが、そうしたジェンダーフリーの流れに反発心を感じる「ジェンダー・バックラッシュ」もあり、上映された国々でも興行的には伸び悩む結果となりました。日本での興収も12.5億円という、ピクサーアニメとしては寂しい数字となりました。

 シリーズ第1作『トイ・ストーリー』が公開されたのは1995年です。アンディ少年が映画『バズ・ライトイヤー』を観たのはそれ以前になるわけですから、ジェンダー運動が一般的に大きく盛り上がる以前になります。

 ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが同性愛者のカウボーイを演じた『ブロークバック・マウンテン』(2005年)がアカデー賞作品賞にノミネートされた際には、賛否が起きたくらいです。下馬評が高かった『ブロークバック・マウンテン』ですが、作品賞は逃しています。

 メジャー映画がジェンダー要素を取り扱うようになったのは、最近になってからです。『バズ・ライトイヤー』にジェンダー要素を取り入れたのは、時代設定的にも少しばかり早すぎたようです。

 映画業界は大きく変わりつつあります。つい最近まではレンタルビデオ店に行けば、ディズニー&ピクサーの新作アニメがずらりと並べられていました。しかし、『バズ・ライトイヤー』をはじめとする新作が、レンタルビデオ店に並ぶことは少なくなりました。

 音楽業界がCD制作をやめて配信のみに切り替えているように、ディズニーも映像のソフト化をやめる方向に向かっています。日本でのソフト製造と販売は、今年からハピネットファントム・スタジオへ外部委託しています。採算が合わないようなら、ソフト化されない作品も出てくるでしょう。