和歌山で大人気のパン屋『3ft(サンエフティ)』が2020年9月に店名を改め、東京の清澄白河に移転オープンしました。看板なし、ショップカードなし、現金支払いなしという、ユニークなパン屋で提供されるのは、12種類の高加水パン。「粉が欲しがるだけ水を含ませる」という独自の製法から生まれるパンの味と食感にやみつきになり、早くもファンが付きつつあります。

一度食べたら忘れられない感動と発見を味わわせてくれる『中村食糧』に訪れました。

 

東京店で生まれた新作「みんなのパン」のジューシーな食感に驚き!

看板はなく、隠れ家のような雰囲気

清澄白河駅から徒歩約3分。清澄庭園すぐそばのマンションの1階に『中村食糧』はあります。外看板はなく、入り口正面の壁に「n」のプレートが掲げられるのみ。

右上をかじられた「n」のマーク

こぢんまりとした店内には、ショーケースと商品棚にずっしりとしたハード系のパンや食パンがネームタグとともに並びます。「シンプル」を体現したかのようなこちらのお店を営むのは、パン職人の中村隆志さん。販売を担当する奥さんの安美さんとともに夫婦二人三脚での経営です。

ショーケースには6種類のパンが並ぶ

販売されている12種類のパンは、いずれも国産小麦をブレンドして使い、高加水パンに仕上げています。

「もともとカチカチのハードなパンが好みではなかったこともあって、もちもちした食感のパン作りに力を入れました。国産小麦は食感にユニークさがあり、同じ品種の粉で『バゲットも食パンも作れる』という間口の広さが魅力。さまざまな国産小麦で試作を繰り返して現在の商品が生まれました。生地にはたっぷり水を含ませ、小麦粉が欲しがるだけ与えて作っています」。

「みんなのパン」には大小さまざまな気泡が

移転後に新商品としてお目見えしたのは「みんなのパン」。パリッとハード系のような見た目ですが、手に取った瞬間の柔らかさに誰もが驚くはず。パンの自重で指の形に沈むほど、ふんにゃりと柔らかく、食べる前から「どんな食感!?」と期待が膨らみます。

「ジャンルレスなパンを目指して作りました。外と中の対比がおもしろく、焼きたては外側もパツパツですが、時間とともに中の水分が外側に出てきてふにゃふにゃになっていくんです。日本の小麦粉だからこその食感だと思います」。

ジューシーな食感と舌触りに驚き!

ひと口頬張ると、小麦粉の甘味と心地よい酸味が口に広がります。「もっちり」どころではなく、「じゅんわり」。そんな表現がぴったりはまるほどみずみずしい食感への驚きとともに、「ジャンルレスなパン」という言葉にも納得です。

まさに『中村食糧』だからこそのスペシャリテ。「トーストしてバターを塗って食べるのがおすすめ」と中村さん。トーストすることで外側がパリッと香ばしさを増し、食感の対比が強まり、生食とは違ったおもしろさを味わうことができました。

 

ナッツとフルーツたっぷり!大人気の「たわわ」と「ショコランのテリヌ」

断面が美しい「たわわ(右)」と「木いちごのフルーティ(左)」

『3ft』時代からの人気を誇る「たわわ」には、レーズン、くるみ、イチジク、オレンジがぎっしり。サクサク、プチプチとナッツやフルーツの食感とともに、むちむち、もちもちの生地の食感も楽しめるよう、絶妙な配合で作られています。

ワインに合わせても良さそうな味わい

ほんのりオリーブオイルが香る「瑞々しい(右)」と、どっしり濃厚な「ショコランのテリヌ(左)」

チョコ、ココア、くるみ、クランベリー、チェリーが入った「ショコランのテリヌ」は、チョコレートケーキを食べているかのようなねっとりとした濃厚さ!「たわわ」も「ショコランのテリヌ」もフルーツとナッツがたっぷり入っているからボリューム満点!お腹も心も満たされるパンでした。

午後のティータイムに合わせたくなるスイーツのようなパンでした

 

「暮らすようにパンを作りたい」。職人としてのこだわりと想いを生地に混ぜ込んで

 

中村さんがパン職人を志したのは高校2年生の頃。『焼きたて‼️ジャぱん』というパンがテーマの漫画を読んでパンの世界に興味を持ったそう。家で試作したパンを友人に食べてもらい「おいしい!」と喜んでもらえた体験が、中村さんをパン職人の世界へ導きました。

高校卒業後は辻調理師専門学校でパン作りの知識と技術を学び、大阪のパン屋に4年間勤務。その後、地元の和歌山に戻り、ギャラリーを間借りしてパンを販売したり、アパートの3階を借りて自宅で焼き上げたパンの販売を行っていたりしたそうです。

宣伝をほとんどしていないにも関わらず、口コミでお客さんがどんどん増え、『3ft』をオープンしたときには、常連さんが多い状態でのスタートでした。独立当時から看板は出さず、商品タグも最小限にとどめたのは「シンプルが好き」という理由から。

「シンプルなものが好きだったので、ショップカードや看板などは特に必要ないと思っていました。パンのクオリティが高ければ自然とお客さんが来るはず」。

中村さんの焼くパンに魅了されるのは、30~40代の子育て世代の方から、年配の方までと幅広く、男女問わずさまざまなお客さんが列を作り、「初めて食べる食感に驚いた!」「ハード系は食べ慣れていないけど、このパンは食べやすい!」という感想が届いているそうです。

「くるみのハチミツ漬け(右)」と「栗の渋皮煮とバニラの香り(左)」

「想定していたよりもたくさんのお客さんが来てくれて、オープン当初は接客もいっぱいいっぱいでした」と笑顔を見せた安美さん。それでもアルバイトを雇うなど、スタッフを増やさないのには、中村さんなりのこだわりがありました。

「僕の『作り手』としての考えや想いをパンに込めているので、お客さんとの間に人を挟みたくないんです。今後も僕のパンをお客さんに最短距離で伝わる流れを大事にしたい。だから僕ら2人でできる範囲で、パン屋さんを続けていきたいと思っています」。

「暮らすようにパンを作りたい」という中村さん。「パンを作る仕事も私生活も混ぜこぜにして楽しみたい」と、その想いを話してくれました。

「生活のリズムを変えたくないから、平日と週末で仕込み量を変えることもしません。毎朝の仕込みスタートは3時半ですが、12時には翌日分の仕込みを終えて、パン生地は17~20時間ゆっくり寝かせます。暮らすようにパンを焼いて、プライベートも仕事も楽しみたいんです」。

「みんなのパン」の生地を使っている「あんこマスカルポーネ」

「次回の新作は?」との問いには、「思いついたら出すかも(笑)」との答え。その笑顔からは、柔軟性の高い仕事への姿勢を感じるとともに、職人としてのこだわりと、パンへの深い愛情を感じることができました。

■お店情報
名前:中村食糧
住所:東京都江東区清澄3-4-20
営業時間:10:30~15:30
定休日:火曜日、水曜日
現金対応なし、クレジットカード他、各種マネーカード対応

 

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