ゆりやんレトリィバァを見くびっていた。
数年前、ゆりやんがNetflixのドラマでダンプ松本の役を演じるために、40kgも体重を増やしているというニュースがあった。仕掛け人は、大物放送作家の鈴木おさむだという。
そのとき、ゆりやんは被害者だと思った。せっかく健康的にダイエットを成功させていたのに、鈴木おさむと吉本興業によって再びブクブクと太らされて、かわいそうだ。このニュースに対する世間の論調はそのようなものだったし、私自身もそう感じていたことは否定できない。
その後、ゆりやんが100回以上もマットに頭を打ち付ける撮影で頭痛を訴え、緊急入院したと報じられ、被害者のイメージに拍車がかかった。その報道から2年たった今月19日、ドラマ『極悪女王』の配信が始まった。
『極悪女王』は、ネグレクトの被害者だったひとりの少女がプロレスラーを志し、最恐のヒールへとのし上がっていく物語だ。リングの上で凶器を振りかざし、度重なる反則技でアイドルレスラーを血祭りにあげるダンプ松本の姿は、間違いなく加害者である。誰もがプロレスに夢中だった時代だ。ダンプの加害に対し、テレビ局にもプロレス団体にも、ダンプの実家にも、抗議と嫌がらせが殺到したという。元来、人のいいダンプこと松本香というひとりの若い女性は、それでもヒールという職務を全うし、狂気を演じ続けた。
つまり今回、ゆりやんが演じたダンプ松本役は「狂気を演じた者を演じる」という難役である。そのあどけなさと残虐性のコントラストにおいて、ゆりやんは画面上でダンプ松本を再現することに成功していたと思う。被害者などではなかった。オーディションで自ら役をつかみ取り、その仕事を完遂した俳優・ゆりやんレトリィバァの姿がそこにあった。
「もうやめろ、そこまですることないだろう……!」
クライマックスの試合シーンで唐田えりか演じる長与千種の頭部に幾度となくフォークを突き刺すゆりやんに、ダンプに、小学生のころにリアルタイムで感じた恐怖と怒りが蘇ってくる。プロレスを見ている。体験している。この臨場感をドラマで実感することは久しくなかった。