街で見かけた、抜け感のあるオールブラックの着こなしが目を惹く彼女。素敵なあの人の雰囲気に、私を少しでも近づけてくれるのは、ひとつのコスメ。美容、アパレル業界を経て、現在はイラストレーターとして活躍するヤベミユキさんの連載。
街を歩いていて目を惹くあの人。顔立ち、立ち振る舞い、服の選び方、そして、メイク。さまざまな要素が、彼女の雰囲気をつくり上げる。
私もコスメの力を借りて、“あの人”の空気を纏ってみよう。
■新しい年。何を保ち、何を捨てるのか
先日街で見かけた、抜け感のあるブラックコーデが目を惹く人。
ドラマチックなシースルーのブラウスとメンズライクなギャバジンのスラックスは、オールブラックな分、素材が引き立つ。艶のあるアッシュブラウンのボブは潔く、黒い服と茶のコントラストが綺麗。
手にはイヴ・サンローランのアイコンバッグ。大人の甘さが漂う彼女のムードにピッタリだ。
おじさんのようなチェックのコートはヴィンテージだろうか。無骨なウールの質感がコーデに抜け感を与えていて、コートを纏った彼女のムードがどの様に変わるのか想像するのが楽しい。
端正でありながら、どことなく隙がある。
その“どことない隙”にはちゃんと意思があり、新しい年に、何を保って何を捨てるのか、彼女は知っているのだろう。
私も彼女のように、意思を持って選択することができたならどんなにいいだろう。
■マットなのにシースルー。計算された抜け感を生むリップ
そんな彼女の空気を纏うために私が選んだのは、イヴ・サンローランの「ルージュ ピュールクチュール ザ スリム シアーマット」。
洗練されたビジュアルは、持っているだけで気持ちが上がる。
もちろん洗練されているのはパッケージだけではない。マットなのにシースルーな質感が、計算された抜け感を漂わせる。スリムなフォルムは塗りやすく、スティックのまま塗ると、程よいラフ感と色味を楽しめる。
リップブラシで艶やかに、指塗りで淡く、まるですりガラスを重ねる様に色味を変えられるのもうれしい。時間を置いて、縦じわに色味が落ちる感じすらモードにきまるので、一日を通していい感じの自分でいられる。
口元に艶やかな赤を宿したら、ベースはハイライターのみ。 輝きと透明感で明るい肌に整えるイヴ・サンローランの「ラディアント タッチ」は27年間ベストセラーという晩品。
目頭の下から目尻の先までラディアント タッチを伸ばしたら、指で丁寧に叩き込む(通称美肌ラインと言うそう)。それだけで顔色が冴えて、顔全体が美しく見える。
目の下、鼻筋にも伸ばしたら、最後に口角の周りも忘れずに。リップメイクがグッと垢抜けます。
背伸びして買ったコスメに合わせるのは、彼から拝借したサーマルカットソー。
あの彼女の様にドラマチックなブラウスと合わせられたらいいのだけど、不器用な私は背伸びを越えた爪先立ちでは転んでしまうのだ。
一歩進んで半歩下がりまた一歩進む。今の私にはこのペースがちょうどいい。
ふとパソコンを開くと、オンラインサイトのカートにセール品が数点入っている。物欲を満たすための深夜のショッピング、購入ボタンを押し忘れていた。
なんでこれを買おうと思ったのか。
本当は何かが欲しいだけなのだ。では、その"何か"とはなんなのか。何を保ち、何を得たいのか、きっとそれは捨てなければ見えてこない。
幸いにも彼のサーマルカットソーは動きやすく、片付けにぴったりだった。
心が迷子になったとき、開くのは財布ではなくクローゼット。思い立って始まった断捨離に静かに時間が流れ、唇の縦じわに色味が落ちる頃、心がすっかり軽くなるのを感じた。
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