思い返せばまだ何事も起こってなかった夏休み前。夏くん(目黒蓮)は恋人の弥生さん(有村架純)に「夏休みいつ取るの? 合わせるよ」と問いかけられて、「うん」とも「ううん」とも取れない曖昧な返事をしていたんですよね。そんなことすら明確に答えられない男の前に急に海ちゃん(泉谷星奈)が現れて、「夏くん、海のパパでしょ? 夏くんのパパ、いつはじまるの?」と詰められるところから、物語が始まったのでした。
それを思えば、夏くんもこのひと夏でずいぶんと成長したものです。まがりなりにも、海ちゃんのパパになると決断したわけですからね。まあ、決断させられたと言ったほうが正しいのだろうけれど。
そんな感じで『海のはじまり』(フジテレビ系)も第10話。振り返りましょう。
■「変えられない男」の話
夏くんのキャラクターを説明するにあたって「もう30前なのに大学時代から同じアパートに住んでる」ってのは、かなり特徴的なことだと思うわけです。普通に考えて収入も倍増しているでしょうし、新しい部屋に引っ越すことって素敵なことじゃないですか。別にその部屋に執着があるわけでもないのに、ただ、変えない。そういう思想の男に強引な変化を強いるとどうなるかというのが、このドラマが主に描いているところなんです。
今回、いろいろあって弥生さんとも別れて、シングルファザーをやることにした夏くん。海ちゃんと一緒に暮らすために転校させるか、あるいは仕事を辞めて海ちゃんのじじばばと一緒に暮らすかという二択を迫られることになりました。
上司に相談すると主にお金のことで転職を止められました。弥生さんは「せっかくがんばってきたのに」と言います。弥生さんという人は仕事が好きなんですよね。第1話では開発チームに「もっとサンプル持ってこい」って圧をかけてたりもしたし、情熱を持って仕事に取り組んでいる人。
でも夏くんは、別にそうじゃなさそうなんです。印刷屋の営業らしいけど、仕事に対してエモーショナルなシーンはひとつもなかったし、出世欲があるわけでもなさそう。じじばばの家に行けば今の家賃(経堂で1DKなら12万くらいかな)は浮くわけだし、今の仕事に執着がないなら、小田原でタクシーでも乗ったらいいのに。そっちの選択肢のほうが丸く収まるように見える。ここでも夏くんの「ただ、変えない」が発動しているわけです。