すると彼女は、「そうかな。負けてる方がよっぽどダサいと思うけど」と言ったのだ。その返答通り、彼女は日々晒されるパワーゲームに負けるまいと自らをカスタムし続けた。思えば幼少期からUは負けん気の強い子だった。

 だが賢さ故、明らかな勝ちを周囲に示すことはなかった。彼女は多くの女性たちの中で共有される価値観の中で、負けないが勝たないという一番聡い序列に自分を置いていた。

◆彼女を引き摺り下ろしたかった

会話する女性
 才気煥発(かんぱつ)とはこのことと私が舌を巻いていた彼女のユーモアは、大人になるに従って人を見下すジョークとなっていった。そのことを私は嫌がったけれど、私の欺瞞に満ちた優しさよりもそれはずっと場を盛り上げた。

 私は彼女やその周囲が共有する序列の最下層で、よく嘲りの対象となった。だが率先してピエロを引き受けた。それが進んで出来る自分は例外だという特権意識さえあった。

 しかし、本当はその扱いを密かに憤っていたのだ。自身を例外だと思い込むことで序列の構造を無傷のまま再生産していたのは他ならぬ私だった。そのため、高みの見物を決め込む彼女を引き摺り下ろそうと、あの醜い思いが湧いたのだ。つまり、私もまた、その序列を共有する一員だったのである。

 その会の間中、私は自らの差別意識と対峙するのに必死で、何を話したかも覚えておらず、見栄えの良い食事をひたすら頬張っていた。下手なことを喋らぬよう次々に食べ物を放り込み、胃がだるくなることで心の重だるさを誤魔化した。

 Uは、「つらいことがあったけど逆に夫婦の絆が深まったって感じ!」とか「今日はみんなに力もらっちゃった!」とか、どこかで聞いたような文句を溌剌と繰り返していた。

 寂しかった。あんなにも焦がれたUの言葉が彼女の社会的地位などとトレードオフになっているのを聞くのは寂しかったが、未熟な私のセンチメンタリズムよりも、Uの勝ち組女性としての強気で凡庸な生き方は分かりやすく確固たるものだった。