道長は必死でまひろを止めるが、きっとまひろが聞き入れないことも分かっていたのだろう。渋々、まひろが家に帰ることを許す。たった8日しかいることができなかった。

仕方ないよ、書けないって言っているんだから……とつい心の中で道長を慰めずにはいられない。

◆彰子の変化

一条天皇のお渡りがないことも悩みではあろうが、彰子の気持ちが見えないところも道長としては悩ましいだろう。何を欲していて、何が嫌なのかもわからない。ただ、最近、少しずつその心が垣間見えるようにはなっていた。

そんな彰子の本当の姿にまひろは気づき始める。こっそりと敦康親王(池田旭陽)にお菓子を渡してあげたり、まひろに「本当は空のような青色が好き」と言ってみたり。

大人になっていく中で、自我が大きくなっていったのか、ようやく彰子の中に何かしらの欲求が生まれたのか。

そのうちのひとつは間違いなく、一条天皇に対する思いだろう。一条天皇といるときや、話題が出ると少し表情が変わる。

まひろが物語のあらすじを話して聞かせると、主人公の「美しく賢く、笛の名手である皇子」のことを「帝みたい」とどこか嬉しそうに言う。何かに触れたときに思い出す人がいるのだとしたら、その人は自分にとって大事な人であることは間違いない。そのことに、彰子は気がついているのだろうか。

◆檜扇に込められた道長の熱い思い

NHK『光る君へ』第33回
まひろが書いた物語の続きは一条天皇の心を動かした。もっと多くの者に読ませたい、と言う帝に、まひろも表情を柔らかくした。昔から物語には人の心を動かす。損得だけではなく、シンプルに心が動く何かがある、というのは素晴らしいことだ。

一条天皇の心を物語で掴んだまひろには道長から、褒美が贈られた。

箱の中身は檜扇。するすると開いていくと、そこには幼い男女が描かれていた。それは、子どものころのまひろと道長……いや、三郎だ。

NHK『光る君へ』第33回
何も知らなかったころのふたり。その檜扇をまひろがそっと胸に抱く。道長はまひろとの思い出をひとつずつ、こうやって心に記憶してきたのだろう。まひろの着物の柄まで覚えてるのはちょっと驚いてしまったが……。