ビデオの中から語り掛ける南くんに「会いたいなぁ」と感極まる父親を前に、15センチの南くんは姿を現すことにしました。ちよみのバッグから這い出て、テーブルの上で堂々と立ち上がる南くん。ちよみは南くんを残して帰宅し、その夜、南くんと父は最初で最後の酒を酌み交わすのでした。
■「受け入れること」加賀まりこの存在感
翌朝、南くんを迎えに行ったちよみは、自分の家族たちにも南くんの秘密を告白することにしました。大切な南くんとの終わりを、大切な家族と共有することを選んだのです。
ちっちゃくなった南くんの姿を見て驚くちよみ家一同でしたが、おばあちゃん(加賀まりこ)は、何事でもないかのように「お昼にしようか」と切り出します。「南くんも一緒に食べよう」と。
ここでも、最初に物事を動かすのはおばあちゃんでした。おばあちゃんこそが、このドラマの価値観を司ってきました。
ちよみの秘密を知ったママが、ちよみに語り掛けるシーンがありました。
「私はどんなことでも、あなたを支持する。あなたの味方になろうと思う。自分の娘だからじゃない。あなたが好きだから。尊敬してるから」
それはそのまま、ママがかつておばあちゃんからもらった言葉に違いありません。
おばあちゃんは、実の息子である放蕩者のたけし(富澤たけし)を追い出し、たけしに嫁いできたちよみのママ(木村佳乃)を娘として受け入れた。そのちよみママと再婚した現在のパパ(武田真治)を受け入れ、その連れ子である拓真(番家天嵩)も家族として受け入れた。ちよみが南くんと隠れて暮らしているというその秘密も受け入れたし、ちよみがその秘密を明かすことも受け入れて待っていたし、姿を現したちっちゃい南くんのことも、真っ先に受け入れて見せた。
その「受け入れること」の対比として今回、文学者である南くんパパからフランツ・カフカの『変身』という小説が紹介されました。ある朝、目覚めると醜い虫に変身していた主人公のグレゴール・ザムザが家族に疎まれ、虐待され、見捨てられ、殺されてしまう話です。グレゴールの家族は、グレゴールがようやく死んでくれたことで、晴れやかな気分で日常生活を取り戻すことができました。