ただ、今回は小高パイオニアヴィレッジに行くとはいっても、宿泊の予定しかなかったので、よそ者としてひっそり滞在して、もし誰かと話せる機会があればというぐらいで、翌日には出発しようと考えていた。
そして、福島市から雨に濡れて、スーパーカブで80kmほど走った。ようやくたどり着いて、合羽を脱ぎ、長靴を履き替えて、挙動不審の姿で受付に向かったわけだけれど、受付の若い男の方が、さりげなくこう言った。
「あの、今日、夜に“おばんざい会”があるんですけど、どうですか?」
ひんぎゃっ、と変な声が出そうになった。夜にイベントがあるなんて、想定していなかったのだ。でも、参加しないでそのまますぐに寝てしまったら、心残りができそうだ。そうに決まっている。そもそも、小高の方々と話をしてみたかったのだ。
「参加してもいいですかっ」
裏返りそうな声でお願いした。というわけで、南相馬市の滞在が二日延びることになるきっかけが、ここではじまったのだった。
“おばんざい会”ということで、今回のイベントの担当になった方が、手料理を振る舞ってくださった。メインでご飯をつくってくださったのは、サラダのファストフード店の立ち上げに取り組む男性で、海外生活も合わせた豊富な自炊経験による“おばんざい”は、ひっくり返りそうなぐらい美味しかった。ほんとうに。
もちろん、ぼくはよそ者なので、どちらかといえばひっそり過ごしていたわけだけれど、受付をしてくれた男の人が「福ちゃん」という小高のキープレイヤーだとわかって、しかも親しく接してくれて、自然に過ごすことができた。福ちゃんはぼくのひとつ年下で、小高ワーカーズベースのコミュニティーマネージャーとして働いている。ゆるさと敏腕さを兼ね備えた、とても素晴らしい人だった。