◆「怒りを感じることができない」元ヤングケアラーの苦しみとは

――今回ヤングケアラーについて描くことになったきっかけは何だったのでしょうか。

水谷緑さん(以下、水谷):編集者の方が、精神疾患の親を持つ子供達に興味を持たれたことからヤングケアラーについて取材することを提案してくださったんです。最初は「子供がかわいそうな目に遭う話を聞くのは辛いな……」とあまり乗り気にはなれませんでした。でも元ヤングケアラーの方達は面白い人が多くて、お話が興味深いと思いました。

これまで他の作品で取材してきた精神疾患の当事者とはまた違う感じがしました。私がお話しした元ヤングケアラーの方達は、自己憐憫があまりなかったり、どこか冷めている人が多かったです。「絆を大切にする」「みんなでワイワイ楽しく」みたいな感覚を持っていないことが多くて話を聞くのが新鮮でした。

――取材された元ヤングケアラーは、どんな方が多かったのでしょうか?

水谷:医療関係の方、看護師さんや心理士さん、精神保健福祉士の方もいて、はたから見れば社会人として活躍する普通の人達だと思います。

でも皆さん、心に苦しさを持っていました。カウンセリングを受けたり本を読んで勉強して、ご自身で過去の体験に向き合いながら言語化している人が多かったです。長年自分の感情を押し殺してきたので今も感情がなかったり、「怒りを感じることができない」という方もいました。

水谷緑さん (画像提供/文藝春秋)
水谷緑さん (画像提供/文藝春秋)
――本書で、ゆいちゃんがロボットになり切って恐怖を感じないようにする描写がありました。あんな風に感情を切り離している人は多かったのでしょうか。

水谷:自分で何も感じないと決めていた人もいれば、ハッキリと意識していなかったけれど大人になってから感情がなかったり、感受性が低いことに気づいた方もいました。子供の頃から、しんどい現実に対処する術としてなんらかの形で感情をオフにしていたのだと思います。