投資信託の積立投資が人気だ。国の政策として「iDeCo」「つみたてNISA」という制度も積立投資を推奨している。なぜここまで積立投資が推奨され、資産形成に有効だと言われるのだろうか。また個別株式ではなく、投資信託による積立投資がすすめられるのはなぜだろうか。
積立投資の環境整備
日本では投資信託の積立投資はかなり前から存在していたが、残念ながら積立投資はこれまであまり普及しなかった。
しかし近年、金融庁をはじめとする政府主導で資産形成のために積立投資を利用することが推奨されている。例えば、2017年からは個人型確定拠出年金の対象が専業主婦や公務員にまで拡大され、ほぼすべての国民が確定拠出年金の加入対象となった。現在、この個人型確定拠出年金には「iDeCo(イデコ)」という愛称がつけられ加入促進がなされている。2018年からはNISAの積立版ともいえる「つみたてNISA」の制度がスタートした。これらの制度は、税制面で個人投資家を優遇するもので、積立投資による資産形成を促している。
銀行や証券会社といった金融機関も個人投資家のために積立投資サービスを提供している。基本的には毎月1回、定められた日に一定金額の投資信託を購入するサービスだが、金融機関によってはさらに使い勝手のよいサービスが登場している。例えば、インターネット証券の中には毎月100円から投資信託の積立を開始できる積立投資も存在する。また、毎月の買付け日を選択できたり、買付けの頻度(毎日、毎週、毎月など)を選択できたりもする。投資信託の買付け資金を銀行口座から自動的に証券口座に振り替えてくれるサービスもある。
このように政府の税制優遇による推進だけでなく、民間金融機関も多くの便利な積立投資サービスを提供してくれるようになっている。個人投資家にとって、投資信託の積立投資をする環境は整ってきたと言えるだろう。
積立投資は投資信託でなければならないのか?個別株式では?
積立投資は投資信託を用いて行われるのが一般的だ。「iDeCo」や「つみたてNISA」も投資信託を主な投資対象としている。しかし、個別株式で同様の積立投資を行うことはできないのだろうか。
投資信託であれば、口数という非常に小さな単位で取引できるメリットがある。例えば、基準価額が10,000円(1万口当たり)の投資信託の場合、1口の値段は1円となる。そして、投資信託は、指定した金額分だけ口数を購入することが可能だ。このメリットを利用して「ドルコスト平均法」で投資すれば、価格変動リスクをある程度で軽減できる。
一方、個別株式では一般的に取引単位が100株単位となっている。1株500円の株式であっても、5万円単位で取引しなければならない。1株単位で取引可能な場合もあるが、それでも1株500円の株式は、500円単位で取引しなければならない。投資信託のように、口数という小さな単位で個別株式を購入するのは難しいのだ。
個別株式を金額指定で購入するサービスも存在はしているが、扱っているのはごく一部の証券会社のみだ。やはり、少額で定額を購入していく積立投資は投資信託がふさわしいと言えるだろう。
積立投資の時間的・心理的メリット
一般に積立投資では毎月定期的に決まった金額の投資信託を買付ける。このような投資方法にはどのようなメリットがあるのだろうか。
まずは、積立投資を買付けるタイミングが自動的に決定されるという点だ。定められた間隔で定められた金額が自動的に買付されるため、相場を見て注文のタイミング決める時間は必要ない。購入金額を考慮する必要もないのだ。このように、積立投資は一度決定してしまえば、投資判断するために調査したり考慮したりする投資家の時間が奪われないというメリットがある。
また、積立投資は購入価格などが気になる投資家の精神的ストレスも軽減される。すべて自動的に決められたタイミングで購入されていくため、投資家は購入については悩む必要はない。積立投資は心理的な観点から考えてもメリットがある。
少額からスタートできる積立投資
少額から投資でき、残高が自然と積み上がっていくもメリットだ。個人投資家は投資のために大きな資金を用意する必要はない。投資信託の積立投資を月々100円から可能という証券会社も存在する。これから投資を開始しようと考えている場合、このように少額から開始できるため、投資金額が障壁となることはほぼないと言えるだろう。
少額であっても長期間積み立てれば資産が出来上がっていく。会社員であれば、給与が振り込まれる銀行口座から毎月自動的に引き落とされるサービスと組み合わせることで、自然と投資資金の確保ができ、投資残高が積み上がっていくため、特に何もしなくていいので便利だ。
補足だが、投資信託を販売する金融機関から見てもメリットはある。少額の積立であったとしても、定期的に買い付けされ残高が増えるため、買付手数料が継続的に発生し、残高に応じて受け取れる信託報酬も増えていくからだ。営業活動にかかるコストも削減できるだろう。
「ドルコスト平均法」とは何か?
もう一つ忘れてはいけないメリットは、投資信託の積立投資は「ドルコスト平均法」により買付けがなされるという点だ。
ドルコスト平均法は、例えば毎月一定額というように、定期的に定額を買付ける投資の方法のことを指す。この「定額で買付ける」というのがポイントとなる。買付ける金額が決まっているので、価格が安い時には投資信託の口数を多く買付け、価格が高い時には少なく買付けることになる。このような買付けを行うと、結果として平均買付け価格を下げる効果が得られる。一度にまとめて購入するよりも、投資信託や株式の価格変動リスクを軽減することができる。
「ドルコスト平均法」を具体的にシミュレーションしてみる
ドルコスト平均法で買い付けると、どのように平均買付け価格が下がる効果があるのか具体的に計算で示す。
以下のようなシナリオで基準価額が当初10,000円(1万口当たり)から変動する投資信託に積立投資して4回に分けて定額1万円を購入するとどうなるだろうか。
- 1回目 基準価額10,000円
- 2回目 基準価額12,000円(当初より20%高い)
- 3回目 基準価額8,000円(当初より20%安い)
- 4回目 基準価額10,000円(当初の値段に戻った) ドルコスト平均法で定額1万円ずつ購入していくと、以下の口数が購入できる。
- 1回目 10,000口
- 2回目 8,334口
- 3回目 12,500口
4回目 10,000口 以上のように4回を購入すると残高口数は40,834口、平均買付け価格も約9,795円となる。4回目が終わった時点では評価額は4万834円となり、4万円の投資金額に対して利益が発生する。
一方、10,000口ずつ4回購入した場合はどうだろか。投資金額の合計は同じく4万円となるが、口数残高は40,000口、平均買付け価格は10,000円となる。4回目が終わった時点での評価額は4万円であり、利益も損失も発生しない結果となる。
合計の投資金額は4万円でどちらも同じだが、このシナリオでは決まった口数を毎回購入するだけでは、利益を得ることはできなかった。一方、ドルコスト平均法によって買付けた場合、利益が出すことができた。価格が安い時に多くの口数を買付けして高い時に少ない口数を買付けしたため、最後の値段が当初と同じでも一定の利益を出すことができた例だ。
もちろん、わずか4回に分けて購入しただけでは、価格変動リスクの軽減は限定的である。リスク軽減の効果を発揮するには長期に渡って購入し続けることが必要だろう。
「ドルコスト平均法」の弱いところ
積立投資の購入手法であるドルコスト平均法の利点について考えたが、残念ながら完璧な手法ではない。ドルコスト平均法にも弱点がある。
上記のシナリオでは、定まった口数を定期的に購入するよりも、ドルコスト平均法の利益のほうが多くなる結果が出た。しかし、ドルコスト平均法は必ず良い結果が得られるわけではない。相場が一方向に向かっている場合は、その効果を発揮しにくい。例えば、価格が下がり続けている投資信託の場合、いくら少ない口数しか買付けしないとはいえ、さらに下がり続ければ損失が発生する。反対に、右肩上がりの投資信託であれば、上昇途中であっても、できるだけ早い段階で多くの口数を買付けたほうが利益は大きくなる。
ただし、長期的に見れば投資信託の価格が一方向に進み続けることは考えづらく、価格は少なからず上昇下落を繰り返すため、「ドルコスト平均法」は効果を発揮しやすい。そのため、時間的にも心理的にも負担が少ない積立投資で「ドルコスト平均法」を実践するのは心強い手法と言えるだろう。
いつ売ればいいかという問題
ドルコスト平均法での買い付けは投資家への負担が少なく、長期的には平均買付け価格を下げる効果があるため、購入方法としてはメリットが多い。だが、ドルコスト平均法は、買付けた投資信託の売却時期を間違えれば損失となる可能性は十分にある。
投資は、購入するだけではなく、売却した時に初めて利益が確定し現金を受け取ることになる。いくら平均買付け価格を下げる効果があったとしても、売却時にそれ以下の価格であれば損失が発生する。
すべての投資家が可能な限り高い価格で売却したいのは言うまでもない。しかし、残念ながら「ドルコスト平均法」はあくまでも価格変動リスクを抑える手法であり、売るタイミングや金額については投資家自身の判断で行わなければならない。
完璧な投資法ではないが
積立投資は完璧な手法ではない。デメリットもあり、損失を被る可能性もある。それでも、平均買付け価格を下げる効果があることや、投資家の時間と労力を必要としない点は大きなメリットだ。特に、投資信託の積立投資の心理的負担が少なく少額から開始できる点で、経験の浅い投資家に向いているかもしれない。
文・潮見孝幸(金融ライター)/ZUU online
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