楽しみにしていた映画を序盤で面白くないと感じたとき、「せっかく買ったチケットだから」といって最後まで見続けたことはありませんか。見ることを止めていれば、残りの時間を別のことで有意義に使える可能性もあったのですが……。このように私たちはしばしば、使ったお金の“元”を回収しようとします。今回は、こうした回収できない費用=サンクコストについて紐解いてみましょう。

面白くないと感じた映画を見続ける?途中で退席する?

たとえば2,000円のチケットを買って見ている映画が、期待に反して面白くないと序盤で感じたとき、あなたはどうしますか?

ほとんどの人はそのまま最後まで映画を見ることでしょう。「せっかくチケットを買ったので“元”を取りたい……」というわけで、面白くないと感じた映画を見続けるとします。2時間後、あなたは眠そうに顔をしかめながら映画館を出ました。

あなたにとって失われた2時間……、はたして支払った2,000円の元を取れたのでしょうか?

元を取ろうとして、逆に損をしていないか

この場合、2,000円の元を取ろうとした行動で、2時間を棒に振った結果となりました。2時間あればほかにどのようなことができたかを考えてみましょう。

ほかの娯楽を楽しむことはもちろん、本を読み知識を吸収する時間にもなり得たし、何らかの仕事をして収益を得ることもできたかもしれません。

映画がつまらなかったのであれば、さっさと映画館を出て時間を有効に使ったほうが損失は小さくなったはずです。それなのに「2,000円がもったいない」という気持ちが要因となって、“2時間でできること”を棒に振るという損失を招きました。

この場合は、「映画を見続けることで失う価値」がどれくらいになるか、に目を向けることも大事だったと言えます。

サンクコスト(埋没費用)とは

行動経済学では、すでに投下してしまった資金や労力のうち、事業や行為を途中で止めたり縮小したりしても戻ってこないものをサンクコストと呼びます。

先ほどの例を、もう少し噛みくだいてみましょう。2時間の映画のチケットに2,000円を支払い、見始めて10分後に「つまらない」と判断しました。

【映画を最後まで見た場合】
チケット代2,000円と上映時間の2時間でできることの両方を失います。

【すぐに映画を見るのを止めた場合】
チケット代2,000円と退出するまでの10分間は失いますが、残った時間の1時間50分は有効に活用できる可能性を得ます。

どちらの選択肢を選んだとしても、「2,000円」と「10分」は回収できない費用です。“このあとどうするか”ということを判断する場合は、どうやっても回収できない2,000円(サンクコスト)のことを判断に入れるべきではありません。

この場合のポイントは、「このまま見続ければ面白い映画になるという可能性」と「途中で退出して得られる1時間50分」はどちらに価値があるかを比較するのが合理的です。

一方で、多くの人は2,000円がサンクコストであるにもかかわらず、これを回収するにはどうしたらよいかということを判断基準にしてしまう、これが人間の思考の癖というものです。

サンクコストの概念は、人間の心の癖

このように人間は、回収できない費用についても回収しようとして、しばしば判断を誤ります。有名な事例が超音速旅客機「コンコルド」の開発でした。

コンコルドは、パリとニューヨークを3時間以下でつなぐという速さを売りにして開発されました。しかし、開発過程で離着陸可能な空港の条件が厳しかったり、乗客定員が100人程度しかなかったりと、採算ラインに乗せるのはほぼ不可能であることがわかり、各国の発注キャンセルが相次ぎました。

250機製造した時に採算ラインに乗るとされていたにもかかわらず、それを大幅に下回る見込みとなります。それでも、軌道に乗りさえすれば黒字化できると信じていた企業は開発費をつぎ込み続け、赤字も膨張、最終的には2000年7月に起きた墜落事故をきっかけに、コンコルドが飛行することは2度となくなりました。

無理だとわかった時点で撤退すべきだったのをずるずると続けてしまったため、失われた損失が膨大なものとなったのです。

この事例は「コンコルドの誤謬」または「コンコルド効果」と言って、行動経済学の用語にもなっています。すでに投資した回収できない費用、つまりサンクコストを回収しようとして引き際を誤り、さらなる損失を生んでしまうことを意味します。

このように、すでに投資した回収できない金額を取り戻そうとする人間の思考の癖が、判断を誤らせることを知って、意識しておくべきでしょう。