東京五輪では、女子重量挙げにニュージーランドのローレル・ハバート選手がトランスジェンダーとして出場。トランスジェンダー選手の五輪出場はハバート選手が史上初だった。IOCの定めたテストステロン値の基準は下回っていたものの、不公平だとして多くの議論を呼んだ。
IOCでは15年にトランスジェンダー選手の出場について、男性ホルモンであるテストステロン値が12カ月にわたり一定以下なら女子選手として出場することを認めるガイドラインを策定。トランスジェンダー選手の出場が可能となっていた。
だが、今年1月にその指針を改定。テストステロン値の基準に加えて「12歳になる前に性転換を完了した選手に限る」という条件が追加されている。
これにより、パリ五輪には事実上トランスジェンダーの選手は出場できなくなっているのである。
この“締め出し”ともいえる基準の改定が知られておらず、多くの人が「パリ五輪にもトランスジェンダー選手が出場できる」と誤解していることもまた論争を激化させる理由となっている。
■ボクシングの競技特性
加えて、相手の頭部を直接殴打してダメージを与え合うというボクシング競技の特性もまた、エキセントリックな反応を呼ぶ要素だろう。
選手同士の力量差がある試合では、それが単なる暴力に見えてしまうことは避けようがなく、それに片方がトランスジェンダーであるという誤解が加われば、さらに残虐性が増すことになる。
実際、東京五輪においてイマネ・ヘリフ選手は女子ライト級で5位、リン・ユーチン選手はフェザー級で9位という結果を残しており、XY染色体を持っているからといってほかの女子選手に対して、映像が与えた衝撃的なイメージほど圧倒的な力量を持っているというわけではないことは示しておくべきだろう。
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いずれにしろ、五輪に限らずすべてのスポーツはルールの下で行われており、両選手はルールを破っているわけではない。ルールについての議論は必要だが、選手個人に誹謗中傷が向けられることがあってはならないはずだ。