「松尾さんの“せい”でこの人生を送っているという感じです(笑)。これまでお会いしたことはあったのですが、作品に出させていただくのは今回が初めて。ずっと目標としてきた方なので緊張もしますし、怖さもありますがそういうタイミングがやっと来たんだと思うと不思議な気持ちです」

『ふくすけ』の印象を伺うと。

「初演当時20代後半の松尾さんの底知れぬ怒りのエネルギーを感じました。登場人物はみんな闇を抱えていて、何かで埋めたいと思っているみたい。今の時代では作品の中で取り扱うこと自体がザワザワしそうな毒々しい展開もあるし、当たり前にさまざまな身体的特徴や精神的問題の人が出てくる。でも、綺麗事でいかないこと、さまざまな人間が等しく当たり前に存在していることこそ松尾作品が普遍的たる所以だと思うんです。“人類平等”と簡単に言葉にしがちですが、本当の平等って難しいというか、フェアじゃいられないってことなんて世の中にたくさんあると思うんです。そもそも、本当の意味で平等なんてあるのだろうかと疑問を持ってもらったり、今までにない感情の波を味わってもらえたら嬉しいです。言葉にすると難しいですし、堅苦しくなってしまうのですが、脚本を読むだけでも吹き出してしまうような面白いシーンが目白押しなので、面白いお兄さんお姉さんを観るくらいの気軽な気持ちで松尾ワールドを楽しんでほしいです」

舞台だけでなく映画、ドラマ、ナレーションと様々な分野で活躍中の内田さんだが、劇団には所属せずにフリーランスでキャリアを重ねてきたという経歴にも驚かされる。

「20代のときは、未知の世界で右も左もわからずとにかく不安でした。自分の強みも弱みもまだ全然わからなくて。でも、逆に何もわからない状態だったからこそ突っ走れたのかもしれないです。周囲の友達が就職をして初任給をもらったりしている頃に、風呂なしのアパートで貧乏生活をしてたこともありましたが、今思えばその不安は味方だったのかなと。不安ということは今の自分に満足できていない、もっと頑張らなきゃという気持ちの表れだと思っていて。その不安な気持ちがエネルギーになるからこそ頑張れるんだと思います」