◆時代を正しく認識する力が欠落
ただし、それは山下達郎の音楽の価値が失われたことを意味するわけではありません。
緻密(ちみつ)かつソリッドで重厚なサウンド、淡く広がるハーモニー、のびやかなメロディに込められた、膨大な情報量と積み上げられた修練。稀代の音楽家への敬意と、一連の発言に対する批判は分けて考えるべきなのでしょう。
しかしながら、同時に山下氏に決定的に欠けている点も明らかになってしまいました。それは一部で言われている人格の問題ではなく、もっと理知的なこと。時代を正しく認識する力です。
たとえ性加害を「憶測に基づく一方的な批判」だと思うこと自体は内心の自由だとしても、その考えがずれていると把握するまでには至らなかった。ここに多くの人が違和感を感じているわけです。
山下氏の後ろ向きな姿勢に冷めてしまって、音楽の価値に触れたり、真剣に考えようとしたりする人が激減してしまう状況。
それこそが山下達郎が直面している危機なのでしょう。