◆苦しすぎた灰色の30代
それ以降も姉は何かあれば帰ってきてはくれるが、カスミさんはますます親と家の重みを感じるようになった。
「もう無理、出よう! とやっと決心したのが、30歳目前のとき。そのタイミングで父が倒れてしまって……あーあ、これで家にいなきゃいけなくなったなと思いましたね」
カスミさんは30代を振り返って「覚えていないくらい」という。働き盛りで一家の経済を担っていた父親が倒れ、カスミさんの負担が増えた。父は闘病の末いったんは退院したものの、ほどなくして病院から、今度はがんに侵されていると告げられた。
やがてコロナ禍がはじまり、カスミさんは職場と家と、父が入院する病院を行き来するだけの日々に入る。毎日が息苦しかった。カスミさんが40代を迎えて間もなく、父が他界した。
父を見送り、母とふたりの生活がはじまった。水面は、常に見えている。でもそこまで浮上できない。息継ぎができず苦しいのに、もがくほどに沈んでいく。