◆清濁ないまぜの現実

 実際の橋本愛自身が、これだけソーシャルな態度の人だからこそ、『新宿野戦病院』の南舞役は、作品世界内だけでなく、現実感覚としても意義深くなる。しっかり背骨のある社会性を背負うなんて、日本のエンタメ界では、ほんとうに稀有な存在だ。

 ソーシャルであるということは、享が言うように、「キレイ事じゃ済まない」側面もあることを舞はしっかり明示してもいる。彼女には支援スタッフとは別にもうひとつの顔があるのだ。最初に気づいたのは、聖まごころ病院に出入りする警察官・岡本勇太(濱田岳)。

 第2話、パトロール中の勇太は、歌舞伎町の一角のラブホテルにサングラスをかけた派手な格好の舞と続いて中年男性が入って行くところを撮影する。彼女が実はSMクラブの人気キャストであることを突き止め、第3話、舞に問いただす場面では、本人はあっさり事実を認める。

「薄汚い中年男性しばいて稼いだお金で弱い立場の人々に寄り添ってます。いけませんか?」とすさまじい早口。それが歌舞伎町という都市空間の片隅にある、清濁ないまぜの現実であることを本作の橋本愛は、痛烈に教えてくれている。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu