金融庁の長官が7月17日に交代する。監督局長であった遠藤俊英氏が新長官となる予定だ。前任の森信親長官は様々な金融機関の問題点を指摘し、投資家の資産形成のために役立つメッセージを発信してきた。任期を終える直前にも投信の運用損益で約46%の顧客が損失を抱えている点を指摘した。また、高い信託報酬の投資信託が高いリターンとは限らないとのデータを公表した。
46%が投資信託の運用で損失を抱えている
2017年には世界的に株価が上昇したが、2018年に入ってからは様相が異なり、世界中の多くの国々で株価が下落している。自国の利益を優先したい保護主義が重視され、通商戦争が深刻化してきた。資金は新興国やリスクの高い資産から、安定を求めて「リスクオフ」局面を迎えているようだ。
2018年3月時点で運用損失を抱えている顧客は、46%とのデータを金融庁が発表した。主要行等9行と、地域銀行20行の顧客を集計したものである。2017年の好調な株価があったにもかかわらず、半数近くの投資家が損失を抱えていることは驚くべき事実だ。これは、投資信託の価格だけではなく、累積の税引き後の分配金も含めた上での結果である。
投資家にとっての「見える化」投資信託を選ぶ指標「共通KPI」
投資家が投資信託を購入する目的はリターンを得るためだ。しかし5000本もの数の投資信託を比較することは容易ではない。そこで投資信託を共通の指標で比較できるように、金融庁が販売会社に公開を求めたのが「共通KPI」である。ここでいう販売会社は「銀行」「地方銀行」などを指し、KPIとはKey Performance Indicator(成果指標)の略である。
金融機関が「商品の販売者」でもあることを投資家は理解することが重要だ。そして販売者のセールストークが正しいかどうかを投資家が判断することは難しい。そこで金融庁は投資信託の「見える化」のために3つのKPIを開示するように求めたのだ。
金融庁が開示を促した3つの成果指標KPIとは?
金融庁が金融機関に開示を促した「見える化」のための比較指標である、3つのKPIを解説する。
1 運用損益別顧客比率
基準日時点で儲かっているか、損しているのかを算出し、カテゴリーに分類する。カテゴリーは例えば「マイナス10%以上~0%未満」「プラス10%以上~プラス20%未満」といった具合だ。
冒頭で、運用損失を抱えている顧客は46%と書いたが、0%未満のカテゴリーの累計すると46%を占めたということである。
また、この損益には「税込販売手数料」を考慮に入れるよう求められている。販売資料で運用リターンのグラフには表れていないが、実際には開始時に「高い販売手数料」を払う場合がある。するとグラフでイメージしたリターンとは全く異なるリターンとなる場合もある。
当社の計算によるものだが、投信の販売手数料平均を2.63%、投信の信託報酬が1.53%とした場合では、合計で4.16%の実質的なコストがかかっている。仮にその期間の運用が3.00%であった場合では、投資家のリターンはマイナス1.16%となってしまうのだ。
今回のKPIでは販売手数料を別建てにしないように求めている。より実態に近い損益が「見える化」される。