◆「文化の盗用」以前のレベルの問題

 こうしてみると、『宝者』の手話と、アイナのコメントは、文化の盗用だとか、障がい者を蚊帳の外に置いているという批判以前の問題なのだと思います。

 意味のない手話をさせられているにもかかわらず「ちゃんと届けようと思うと、表情とかが勝手についてくるんだよね」と言ってしまうことは、自分で自分のしていることを把握できていないと受け取られても仕方ないからです。文章として成立しないただの手振りで、一体何を「ちゃんと届けようと」思えるのでしょうか?

 これでは作詞と作曲を手掛けた『宝者』自体にも彼女がどれだけの責任を負っているのかがわからなくなってしまいます。

 そのようなアーティストを信用することが出来るでしょうか?

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】

音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4