◆“夫婦の深い愛の話”として

『コットンテール』より
©️2023 Magnolia Mae/ Office Shirous
――本作の夫婦関係、家族関係は、他人事ではない普遍性も感じましたが、木村さんご自身は何か影響を受けるようなことはありましたか?

木村多江(以下、木村):わたしの周囲には認知症の方がおらず、知らない世界でした。自分が演じるにあたって、いろいろな方にお話を聞いたり、映像を観たりして、介護をしている方々の大変さや、自分を失っていくような心情などを目の当たりにしました。

認知症の方がときどき普通に戻り、ハッとすることがあるそうです。そこで起こり得る、“自分がどうなるか分からない恐怖”というものがあると知ったことが、わたしにとってはすごく大きなことでした。

わたしは父が早くに亡くなりましたが、母はまだ健在、義理の両親も健在で、親の介護をまだ経験していません。伯父、祖父、祖母も認知症ということはなかったので、ほとんど知らない世界だったんです。でも、国民の半分以上が40歳以上なわけですから、たぶん経験のある人は、割合としては多いと思うんですよね。

この映画は家族の再生の物語だから、これがひとつの希望となってほしいとは思っているけれども、実際に介護されている方の大変さや、わたしたちはどうやってこれからの課題、そして現実にちゃんと向き合うべきなのか、そして他人事ではなく、我が事として見ていかなきゃいけないなということを、演じてみてさらに考えるようになりました。

――木村さん演じる妻は、リリー・フランキーさん演じる夫に手紙を残したりするわけですが、このふたりの関係は、どのように理解して演じていましたか?

木村:いろいろなご夫婦の介護の映像を観たりするなかで、兼三郎さんという人は、大変だけれども、やっぱり妻の明子をものすごく愛している人だということはすごく感じたので、だからこそ兼三郎に自分の未来を託すという夫婦の深い愛の話でもあるなと思いました。

お互い愛してるからこそ起こり得る、あの過程と結末なんじゃないかなと思いました。そして、それはもう本当にリリーさんだから余計に上手くいったんだと思うんです。長く連れ添った夫婦みたいな空気感が出ていて、お互いにどこか深いところで繋がっているみたいな。そういう感覚みたいなものを大切にして演じました。