◆「間違ってなかった」と感じた分岐点

前田旺志郎
――『海街diary』を見返してみると、浜口とのちょっとした共通点がありました。どちらも初登場場面で、画面の下手からパッと出てきて、すぐにフレームアウトするんです。

前田:なるほど!

――芸歴が長いからこそ、作品ごとの共通点が見つかるんですが、自分は俳優だなと思ったのはどのあたりからですか?

前田:高校受験がきっかけです。僕は中学まで大阪にいました。中学2年か3年に上がるタイミングで、両親からこの先どうするのか聞かれ、芸能を続けていくなら、もうそろそろ上京すべきではないのかと。

それまでは単に楽しいくらいの感覚でした。仕事だからとか、この先ずっとやっていく感覚はありませんでした。でもそのときに初めて自分の人生を大きく決める選択を突きつけられて、すごく迷いました。今でも毎年、年越しは大阪に帰って友達の家族と過ごすくらい、僕は地元が大好きです。彼らと離れるのが寂しくて、大阪を出るというのは大きな決断でした。

でも、何かわからないけど、俳優というのはすごく楽しい気がする。「ここで辞めるのはもったいないかも」と思って、東京に出て続ける旨を両親に伝えて、上京しました。そこから作品に対する向き合い方が変わりました。自分で選んだ道という、今までとは違う新しいところからスタートして、しかもそれが仕事だという感覚が強くなりました。

高校に入ってから役について考える時間は格段に増えましたし、考えれば考えるとほど、現場に行った時がさらに楽しくなりました。「うわぁ、やっぱり間違ってなかった」と感じた分岐点でした。

――大学は総合政策学部。美大や芸大は考えなかったんですか?

前田:高校を卒業して芸術系の大学に行くのか、あるいは仕事一本にするのかとなったとき、いろんなものを見たいという好奇心が勝りました。総合政策学部はあまり専門性がなく、個人個人がみんなやりたい研究をやるという学部です。

いろんな職業、価値観、世界に触れて、もっと視野を広げて、その上で俳優を楽しいと思いたかったんです。

――早稲田大学の是枝ゼミでも面白そうでしたね。

前田:確かにそうですね(笑)。