◆「推し上手」は仕事でもうまく立ち回れる
――自分自身の成長の糧になる可能性もあるわけですね。
熊代:あとはもちろん、単純に「推し活」の対象の活動や創作物に触れて楽しむというのも重要な効能です。嫌なことがあったときに気分転換ができる、そういうチャンネルがあると生きていくのが少し楽になるんですよね。
――まさに「推し活」と上手く付き合うことで生活が潤うという。
熊代:「推し活」の対象は身近な人だっていいんです。たとえば、会社の先輩、同僚、後輩に推しがいれば、それぞれが自分のロールモデルになりますし、その人たちが持っているスキルやノウハウをリスペクトすることで自分にも取り込みやすくなる。それに、推す自分自身だけでなく推される側も成長しますよね。
――推される側もですか。
熊代:子供だって親が「この子はダメだ」って思っているよりは「推し甲斐がある」と思った方が伸びますし、会社の後輩や部下も同じです。「推し活」ってもともと対象者をエンパワーしていこうという活動じゃないですか。経済的なことだけではなく、ライブに集まってステージを盛り上げるというのもエンパワーする行為です。
それって実は、日常生活や職場での「推し活」的なものにも当てはまることで。後輩はもちろん先輩や上司を推すことでエンパワーもできるし、自分自身も成長できる。いいことだらけですよね。
そう考えると「推し活」は意外と、ビジネスマンにとって大事なことでもあるんです。「推し上手は仕事もできる」。読者のみなさまにはそう伝えたいですね(笑)。
<取材・文/鈴木雅展>
【熊代亨(くましろ・とおる)】
精神科医・ブロガー。ブログ「シロクマの屑籠」にて現代人の社会適合のあり方やサブカルチャーについて発信。著書に『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(ともに花伝社)、『何者かになりたい』(イースト・プレス)、『「推し」で心はみたされる? 21世紀の心理的充足のトレンド』(大和書房)など
【鈴木雅展】
神奈川県出身。人文科学系出版社に勤務し翻訳書籍等の編集を手掛けた後、フリーランスとしてアニメ雑誌やWEBサイトを中心に各社・各媒体で編集・ライティングを担当したほか、アニメ関連ムック、原画集等の編集に携わる