【第1週】結婚するくらいなら「地獄」を見ても――当時の既婚女性の現実とは?

 第1週、猪爪家の下宿人・優三(仲野太賀さん)が通う明律大学法科の授業をうっかり聞いてしまった寅子は、女性が無能力者として扱われてしまう当時の日本の現実に驚がくし、それが彼女に法律家を目指させる理由となったというのがメインの内容だったと思います。

 戦前の日本では本当に、女性を法的無能力者として扱う民法が存在していたことは有名です。しかし、女性だからすべて無能力者の扱いでもないのです。無能力者は既婚女性に限定され、独身女性や未婚女性はその扱いではありませんでした。寅子が結婚に魅力を見いだせない、結婚するくらいなら「地獄」を見ても法律家を目指す! などと言っていた理由でしょう。

 一度結婚してしまうと、たとえ成人していたところで、女性は人生における大事なことはほとんどすべて夫の同意がなければ、自分の意思だけでは決められないようにされてしまっていたのです。

 ちなみに離婚が成立した女性は無能力者ではなくなります。しかし、夫は妻を比較的簡単に離婚できたのに対し、その逆はかなり困難でした。また、妻の立場は夫よりも非常に低く、夫は妻が誰か別の男と不倫をしている場合、それだけで姦通罪といって、妻と愛人男性を罪に問うことができたのですが、妻は夫に愛人女性を作られても、それだけでは姦通罪を問うことはできないのです。

 有名人のケースでいうと、大正元年(1912年)、「国民的詩人」北原白秋(当時27歳)が隣家に住んでいたことで知り合ってしまった松下俊子という人妻で、夜はホテルのバーでホステスをしていた女性と抜き差しならない関係となり、「殺すか、一生忘れられぬほどの快楽の痛手をお前様(=俊子)に与えるか」の二択だ、選べよ、みたいな恥ずかしい恋文を送りつけて盛り上がっていたのですが、俊子の夫から二人の関係が咎められ、姦通罪で訴えられるという事件が起きました。

 姦通罪で訴えられても、裁判になる前に示談にできれば、牢屋には入らなくて済むのですが、作家のような人気商売は致命傷を得るので、社会的な死刑判決ともいえ、女性だけでなく、その愛人男性も気を揉んだようです。

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