「サスティナブルファッション」という言葉を聞いたことはありますか?
近年、ファッション業界は自然環境に深刻な影響を与えていると危惧されており、世界的にも問題視されています。この問題を打破すべく、各ファッションブランドがスタートしているのが「サスティナブルファッション」への取り組み。
今回は、1980年代からすでに“サスティナブル”な取り組みを行なってきた良品計画の衣服・雑貨部 小林幸枝さんにお話を伺い、サスティナブルファッションの取り組みについて理解を深めていきます。
「サスティナブルファッション」ってなに?
衣服は私たちにとって必需品。単純に体を覆うだけでなく、心にも華やぎを与えてくれます。しかし、ファッション業界における「大量生産・大量消費・大量廃棄」が世界的に深刻な問題を及ぼしていることも無視できません。
近年はファストファッションが流行した影響もあり、衣料品の年間消費量は年々増え続け、同時に廃棄される数も増えています。日本では、売れ残った新品の衣料品が年間約100万トンも廃棄されているのだそうです。
廃棄された衣料品の多くは焼却処分となり、それに伴い大量のCO2が発生します。さらに、衣料品を作る過程で生じる汚染水や温室効果ガスも、地球環境に悪影響を与えています。
このままではファッションが地球環境を壊す原因の一つになってしまう恐れがあります。そういった問題を解決するために始まったのが「サスティナブル」な取り組み。サスティナブルを日本語に訳すと「持続可能な」という意味になります。
ファッション業界では各ブランドが、回収した古着を資源化したり在庫を廃棄せずに再流通させたりすることで「持続可能なファッション」の実現を目指しています。
1980年から持続可能な衣料品づくりを続けてきた無印良品
ここからは、無印良品を展開する良品計画の小林さんにお話を伺っていきます。
小林さん(以下、小林) :良品計画は会社設立当初の1980年より大量生産・大量消費に対するアンチテーゼを唱えてきた会社です。素材を見直し、生産工程の手間を省き、包装の簡略化という3つを大切にしてものづくりを続け、商品をブラッシュアップしてきました。「持続可能」という考え方は私たちがずっと大切にしてきたものです。
これまでに、衣料品を作る過程で出るゴミを削減するために試行錯誤を重ねて、お客様から使用済みの衣料品を回収してリサイクルする取り組みを行ってきました。従来は捨てていたものを再利用し、新たな商品にするという挑戦もしています。
──「サスティナブルファッション」という言葉が生まれる前から、環境に配慮した取り組みを行っていたのですね。
小林 :私たちは、リサイクルやオーガニックの商品に付加価値を付けるべきではないと考えています。「これはリサイクルだから、オーガニックだから特別なものなんです」と価値を持たせるのは、良品計画が大切にしている姿勢からは逸れることです。
そのため、リサイクル商品とそうでない商品との間のクオリティや価格に差が生まれないようにしています。リサイクル商品であっても品質を落とさず、お客様が魅力的に感じて手に取ってくださるものにしようと心掛けています。
──どのようなリサイクル商品を作っているのですか?
小林 :無印良品のシャツを作る生産工程で出た端切れを再利用して作った「再生コットン混」(※)というシリーズがあります。衣料品を作る工程で出る断裁クズを最小限まで減らすため、コンピューターを導入し、効率的な裁断方法を算出するなどギリギリまでゴミが出ないようにしているのですが、それでも0にすることはできず、生地の一部が断裁クズになってしまうんです。
極限まで抑えているとはいえ、トータルで考えるとその量は決して少なくありません。それならば、この断裁クズを再利用してアイテムを作れないかと考えたのが「再生コットン混」シリーズの始まりでした。
※今年度の販売は終了しました。
ベトナムの工場で見た断裁クズの山に危機感を覚えた
──無印良品の製品を作る生産工程で出た断裁クズを再利用して作った「再生コットン混」シリーズ。断裁クズから糸を作り、Tシャツに加工するとはどのような作業なのでしょうか?
小林 :Tシャツを作るときの断裁クズを専用の機械に何度も通し、バラバラにして綿の状態に戻すんです。しかし一度断裁しているため繊維が短く、そのまま糸にしたのでは強度を保つことができません。工場と試行錯誤しながら色々なテストを行い、しっかりと品質の保てる糸を作り上げました。
そのため開発には通常よりも時間がかかりましたね。ワンシーズンに出せる製品の数は2品が限界でしたし、難しい取り組みだったというのが正直なところです。
──断裁クズを使って新たな商品を作るというのは簡単なことではないのですね。リサイクル商品を作るときは通常の商品よりも開発に手間も時間もかかると思うのですが、それでも開発を続けたいと考える動機は?
小林 :数ヶ月前に行われた社内研修で、ベトナムのホーチミンにある工場に11日間滞在したんです。そのときに見た断裁場の光景が衝撃的でした。大量の断裁クズが出るという事実は以前から知っていたのですが、実際に工場に入って山のような断裁クズを自分の目で見て、現状の問題を痛感しました。
できるだけゴミが出ないように計算して断裁していても、これだけの量のゴミが出てしまう。自分たちが作る製品に対し、リサイクルをしていかなくてはいけない、という責任を改めて強く感じました。
──現地の実態を見て、危機感を覚えたわけですね。
小林 :そうです。これまでにも現地の工場を訪れて見学する機会は何度もあったのですが、長期で現場に入り、さらに自分で縫製を行う経験もさせてもらって。そうすると、企画をする上での課題も見えてきます。